国産スポーツカーやスポーツセダンは、外国製スポーツカーと同等になるほどハイパワー化していますが、いまから15年前までは日本車メーカーは自主的に『280馬力規制』を課していました。
280馬力を優に超えるクルマを生み出すことは可能だったにも関わらず、日本車メーカーはなぜ280馬力の自主規制をしていたのでしょうか?
280馬力自主規制がなければ今以上の高性能スポーツカーを生み出せた?
2007年に日産から登場したGT-R(R35型)は480馬力を発揮。
次いで2010年に560馬力のレクサス LFA、2017年にはホンダから507馬力を発生するNSXが登場し、ここ10年で次々と国産スーパーカーが誕生。
今やフェラーリやポルシェなどに肩を並べるスーパーカーとなっていますし、今後も新しい国産スーパーカーやスポーツカーの登場が噂されています。
また、GT-Rは現行モデルでは570馬力までパワーアップし、ここ10年で国産スーパーカーは500馬力オーバーが当たり前のようになり、進化は留まることを知りません。
そんな一方で、国産メーカーは約15年前まで、全社で馬力に対する自主規制を設けており、いかなるクルマであっても最大出力を280馬力までというルールを設けていました。
この『280馬力自主規制』があったから、日本のスポーツカーは海外のスーパーカーより劣ってしまったという声もたびたび聞かれますが、はたして本当にそうなのでしょうか?
ここでは改めて280馬力自主規制がなされた経緯や、規制がなければ日本のクルマは今よりもさらにハイレベルとなっていたのか?などを検証してみました。
280馬力自主規制はどのようにしてできたのか?
1980年代、国産車はDOHC化やターボ化に伴いハイパワー化されるにつれて、同時に交通事故による死亡者が1万人を超えるようになりました。
これは『第二次交通戦争』と呼ばれ、深刻な社会現象となります。
そのため、日本自動車工業会は当時の運輸省(現:国土交通省)から最大出力に関する行政指導を受け、すべての国内仕様の国産車に馬力規制をかけることに。
1989年当時、発売直後だった日産 フェアレディZ(Z32型)は当初、300馬力の高性能を売りにデビューさせようと目論んでいました。
フェアレディZと同時期に発売された日産の『インフィニティ Q45』は既に輸出仕様で300馬力に達しており、『スカイラインGT-R(R32型)』と揃い踏みで300馬力トリオとして華々しくデビューする予定が、運輸省の行政指導内容により、フェアレディZやインフィニティ Q45、そしてスカイラインGT-Rまで280馬力にデチューンされて販売することになります。
この行政指導の定義とは、行政機関が行う行政目的のための指導、勧告、助言その他の行為であり、処分や命令に該当しないものとされます。
そうなると運輸省が日本自動車工業会に行ったことは「馬力規制をしてみませんか。」という相談のようなものに思えますが、実質は役人からの鶴の一声で決められたようなもの。
しかし、運輸省から直接的に定められたことではないという定義のため、『自主規制』と呼ばれているのです。
280馬力規制でも国際レースでタイトルを連発
280馬力に縛られた国産車は、海外メーカーと同じ土俵でパワー競争ができなくなりましたが、それはあくまで日本国内に限った話。
海外ではパワー規制はされないため輸出された海外仕様の国産スポーツカーの多くは300馬力越えを果たしていました。
そしてホンダ NSX、スカイラインGT-R、三菱 ランサーエボリューション、スバル インプレッサWRXといった国産スポーツカーは、レースの舞台で数々のタイトルを獲得し、世界中の消費者が欲しがるスポーツカーに成長。
国内仕様に280馬力規制があっても、国産スポーツカーは全世界のスポーツカーファンや多くのドライバーが欲しがるモデルになっていきます。
300馬力のホンダ・レジェンド発売で280馬力自主規制撤廃
2000年代に入ると、280馬力をゆうに超えるの輸入車が続々と日本へ入ってきました。
こうなると280馬力以下の国産スポーツカーが圧倒的に不利になり、多くのスポーツカーが生産終了になっていきます。
これには日本自動車工業会も頭を悩ませ、国土交通省に280馬力自主規制の撤廃を打診。
そして2004年10月7日に登場したホンダ4代目レジェンド(KB1/2型)が300馬力に達したことで、国産車は280馬力の呪縛から放たれたのです。
まとめ
馬力を規制したことで本来のポテンシャルは発揮できませんが、馬力を抑えつつもトルクはアップさせていき、スカイラインGT-RのR32、R33、R34の順でトルクを比較すると353.0N・m(R32)、367.7N・m(R33)、392.3N・m(R34)と力強いトルクを発揮するエンジンへと進化。
これまではエンジン性能ばかりが争いの対象となっていましたが、馬力規制を機に、日本車が疎かにしがちでもあったシャシーや、独自の制御デバイスといった開発にも力を入れてきました。
また、日本のチューニング業界では280馬力から更にパワーアップさせるためのパーツ開発が進み、今では世界規模でトップブランドとなっているカスタムパーツメーカーも多数存在します。
さらに、スカイラインGT-Rに搭載されたエンジン『RB26DETT』やスープラに搭載された『2JZ-GTE』は、カスタムベースとして最良のエンジンとして今なお世界中で人気となっています。
280馬力自主規制当時は、海外スポーツカーとのパワー競争では勝負になりませんでしたが、それでも独自のブランディングに成功し、世界的なスーパーカーになったGT-RやLFA、NSX、そして新型スープラへとバトンタッチできたと考えられるのではないでしょうか。