国産の本格オフローダーの王様と言えばどのモデルを思い浮かべますか?
ジムニーは悪路走破性に優れていますが、王様というには小さい気がします。
ジムニーでクロカンの楽しみを知って、ランドクルーザーやハイラックスなどへステップアップをする方も多いでしょう。
しかしこの国には、さらにワンランク上の"オフロードの覇者"『メガクルーザー』が君臨しているのです。
ランドクルーザー200やレクサスLXを上回る『巨艦』メガクルーザー
全長約5m、全幅約2.2m、車高も2mを超える堂々たるボディに最低地上高420mmと、かなりの悪路どころか30cm程度の冠水なら何のその。
ボディ底面すら濡れはしません。
車内には6名乗車が可能で、4人は後席で残り2人は運転席と助手席。
それも、最低地上高を上げるために駆動系に採用したハブリダクション・ドライブにより、運転席と助手席の間に巨大なトランスファーやデフその他が鎮座し、『隣の席』というよりはコックピットと航法士か指揮官席という様相です。
さらにフル乗車した上でラゲッジに750kgの貨物を搭載してもビクともせず、もちろん特殊用途で使う際には、乗員スペースと別に各種機材の搭載も容易となっています。
そして、もちろん駆動方式は4WD、それもフルタイム4WDながらトルセンLSDやセンターデフロック機構を持ちます。
気になる点と言えば4輪車ゆえの接地圧の高さですが、大径で幅広のタイヤに後輪のタイヤ空気圧調整機構(オプション)を駆使することもできるという無敵仕様。
これで走れない道があるなら、もはや装軌式(キャタピラ)車両を持ってくるしか無いというほどの悪路走破性とタフなボディや駆動系を持ちつつ、実は4WS(4輪操舵)なので、小回りすら効くこの車の名は、大迫力ボディと性能にふさわしい『メガクルーザー』。
同種の、というより元祖と言えるアメリカのハマーH1でもそうだったように、一部のマニアがあえて乗る以外はSUVとして一般人の手におえる代物ではなく、様々な組織で特殊用途に使われる本気のオフローダーです。
ベースは陸上自衛隊の後方から戦場まであらゆる現場で活躍する高機動車
メガクルーザーの原型は、防衛庁(現在の防衛省)が陸上自衛隊の人員輸送用高機動車両として1993年から配備を始めた『高機動車』で、防衛出動や災害派遣など有事の過酷な環境でも任務を果たせる要求により開発されました。
基本的には、1985年から米軍へ配備が始まったM998四輪駆動軽汎用車『ハンヴィー』と同等の能力を持つ車両を日本でも開発・生産したもので、高機動車の方が4WS機構による取り回しや燃費性能などに優れるものの、基本的には非常に似た車両です。
そのため配備当初から『ジャンビー』と呼ばれることの多い高機動車ですが、本家ハンヴィー同様、汎用車両として輸送任務だけでなく誘導弾(ミサイル)などを搭載した武装型や、各種センサーなどを装備した特殊任務型が存在します。
そしてハンヴィーに対するハマーH1同様、民生型として存在するのがメガクルーザーです。
余談ですが、ハマーH1が誕生したきっかけは、オーストリア軍時代に誤って装甲車を沈めた経験もある戦車兵で、軍用車両好きでも知られる俳優、アーノルド・シュワルツェネッガーの要望で生まれたと言われています。
このような背景もあり、一時期セレブの乗り物として好評だったハマーH1ですが、メガクルーザーには華やかなSUVとしての一面はありません。
陸上自衛隊の高機動車にせよ、海上 / 航空自衛隊やJAF、消防などで使われるメガクルーザーにせよ、『メガクルーザー(高機動車)で無ければどうにもならない役割』のために投入される、"はたらくくるま"的なジャンルの車種となっています。
逆に言えば、それだけ特殊な車と知ってなお個人用のSUVとして乗り回す人がいれば、そのために人並以上の苦労をして笑えるか、あるいはそれが苦労にもならないほどスゴイ人と言えるのです。
主なスペックと中古車相場
トヨタ BXD20V メガクルーザー 1996年式
全長×全幅×全高(mm):5,090×2,170×2,075
ホイールベース(mm):3,395
車両重量(kg):2,850
エンジン仕様・型式:15B-FT 水冷直列4気筒ディーゼルOHV16バルブ ICターボ
総排気量(cc):4,104
最高出力:114kw(155ps)/3,200rpm
最大トルク:382.5N・m(39.0kgm)/1,800rpm
トランスミッション:4AT
駆動方式:4WD
中古車相場:980万円
まとめ
メガクルーザーは一般向け販売を2001年で終えており、モデルライフは5年ほどのわずかな期間でした。
価格も新車当時で962万円、エンジンを変更したマイナーチェンジ後で980万円と非常に高価な上に、特殊用途以外では大きすぎて所有も使用も容易ならざる代物だったので個人で購入する人は少なく、中古車が出るのも稀であり、たまに出ても値落ちしていません。
それゆえ、実際に見かけたとしても、災害現場で活躍する姿かその組織をアピールするためのイベントくらいで、むしろベースになった高機動車の方がよく見かけると思います。
そんな車両を短期間とはいえ一般向けにも販売していたのは、まさに驚きではないでしょうか。