エクステリアをグッと引き締めるだけでなく、走行性能や燃費などにも貢献するエアロパーツ。
特に純正品や自動車メーカー系の外装パーツに多用されるのがABS樹脂やAES樹脂。
このふたつ、成形加工性がよくねばり強いといった、クルマの部品にうってつけの素材なんです。
クルマのことを知り尽くしたメーカー純正品に採用されるには「ワケ」がある!
好評の素材解説シリーズ、今回の記事では名前も似ているこのふたつの違いっていったい何なの?という疑問やABS樹脂・AES樹脂それぞれの持つ特性の解説。
さらにはCFRPやカーボンなどの繊維強化プラスチック製品との比較などを織り交ぜつつ詳しく掘り下げていきます!
ABS樹脂とAES樹脂って聞いたことある?素材選びの重要性とは
実は純正エアロや純正部品の定番素材!
近年の自動車の進化に伴い、純正装着でもその重要性が更に大きくなっているエアロパーツやバンパーなどの外装部品。
特にエアロパーツはエクステリアの美しさだけでなく、操縦安定性や燃費の向上、騒音の低減など、今や車両の走行性能を向上させるために欠かせない重要な役割を果たしています。
そんなエアロパーツの素材として、特に社外品パーツでもよく使用されるFRPとカーボン系素材については以前ご紹介しました。
今回は新車装着の純正外装部品やメーカー系エアロパーツの素材としてよく使われている
- ABS樹脂
- AES樹脂
このふたつの素材が持つ特徴と、長所・短所について解説していきます!
エアロパーツに適した素材の条件を改めておさらい
・軽量であること
・強度や耐衝撃性に優れている
・経年や天候による劣化に対する耐久性が高い
・成形加工性が高い
・表面の仕上がりが美しい
これらの条件を満たす素材として、主に自動車メーカーの純正部品ではABS樹脂やAES樹脂が選ばれることが多いのです。
また、アフターパーツでは炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)なども多く使用されているのは以前紹介した通り。
エアロパーツの素材選びで重要なポイントは、クルマの用途や目的、製造コストなどを考慮して適材適所に配置すること。
特に純正エアロパーツの場合は、車種ごとに開発段階で、その車両の性能や目的に合わせてメーカーが素材を厳密に選定しているのです。
ABS樹脂とAES樹脂の特徴を詳しく解説!
GFRP/CFRPとの最大の違いは「割れにくさ」にアリ!
「ねばり強さ」と「割れにくさ」です。
繊維強化プラスチック素材は、力が加わると曲がったりしつつ、ある程度形状を保ったまま変形しますが、限界を超えると一気に破断する性質があります。
簡単に言うと「硬いけど割れやすく脆い」のです。
一方、ABS樹脂やAES樹脂は、大きな力が加わるとある程度までは破断せず、曲がって変形するねばり強さがあります。
こちらも簡単に言うと「柔軟でねばり強く割れにくい」のです。
またABS樹脂やAES樹脂は「熱可塑性」といって、高温下で柔軟性を持ち、成型加工や再加工が可能な性質を持っています。
この性質を応用して、変形してしまった場合でも熱を加えながら元の形に修復することが可能。
そのためぶつけてしまうことの多いバンパーやサイドモールなどには特に向いている素材であり、メーカー純正の外装部品に多く使用される理由にもなっているのです。
筆者も経験した例でいうと、割れずに凹んだバンパーに熱湯をかけると「ボコッ」と元の形に戻り、修復できたことがありました。
コレはFRPやカーボン系の繊維強化プラスチック素材では決してマネできない芸当といえるでしょう。
【素材解説:ABS樹脂】 成形性よし、コスパよし 樹脂素材の優等生
ABS樹脂とは、「アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン」の略で、上の割れにくさについての解説でも挙げた通り熱可塑性樹脂の一種。
ABS樹脂は、高い強度と耐衝撃性を備えており、さらに成形加工性にも優れています。
数ある熱可塑性樹脂の中でも比較的安価であり、コストと性能のバランスが良いため大量生産に向いています。
その扱いやすい特性と適正なコスパから、自動車用パーツだけでなく家電や文具、おもちゃに至るまで身の回りで幅広く使われています。
クルマでは主に純正バンパーやエアロに使用されており、一般的な純正バンパーはほぼABS樹脂製と言っても過言ではありません。
またその高い成形加工性と表面の仕上がりの良さを活かし、バンパーやエアロパーツのみならず複雑な形状のインテリアパネルの生産にも適しています。
ダッシュボード、センターコンソール、ドアトリムパネルなどがABS樹脂で作られていることも多く、まさに自動車用部品として無くてはならない存在。
ABS樹脂は、まさに樹脂素材の優等生といえるでしょう!
【素材解説:AES樹脂】耐候性と軽量さを高めたABS樹脂の上位互換
AES樹脂は「アクリロニトリル・エチレン・スチレン」の略で、こちらもABS樹脂と同様に熱可塑性樹脂の一種。
ABS樹脂に配合するゴム成分(ABSのBの部分)をエチレンプロピレンジエンゴムとすることで、ABS樹脂よりも光による劣化に対する耐久性を上げたもので、長期の屋外使用に強くなっています。
AES樹脂の基本的な特性はABS樹脂とほぼ同じ。
良好な成形加工性というABS樹脂の良い部分はそのままに、より軽量かつ耐候性を引き上げた、いわば上位互換ともいえる材質です。
また、ABS樹脂よりも軽量でありながら高い強度と耐衝撃性をも兼ね備えています。
表面の仕上がりも非常になめらかで、コストがABS樹脂よりも高いという点を除けば非の打ちどころのない優秀な材質といえるでしょう。
ABS樹脂とAES樹脂を比較したときの選定ポイントは?
特に衝突時の衝撃吸収に役立つバンパーではその傾向が顕著。
いっぽうで最大の弱点は耐候性の低さ。
ABS樹脂に含まれるブタジエンゴムがもつ二重結合が熱や大気中のオゾンにより切断されると、容易に劣化が進んでしまいます。
そのためクルマの外装部品として使用する場合は、必ず塗装で皮膜をしっかり作って表面を保護する必要があります。
しかし成形加工性の良さからくる生産性は抜群で、生産コストが比較的低くリーズナブルなのは大きな魅力。
よって多くの量販車に内外装問わず幅広く採用されています。
いっぽうAES樹脂は、ABS樹脂最大の泣きどころである耐候性という弱点を克服し、更に軽量。
自動車部品の樹脂素材としては文句無しともいえる特性を持っていますが、ABS樹脂と比較して素材自体の製造コストが高く、どうしても部品の価格に反映されてしまいます。
そのため主に高級車や小ロット生産のクルマに使用されることが多いのです。
結論、クルマ用のパーツに関してはABS樹脂とAES樹脂はコスト事情によって使い分けられるといって差し支えないでしょう。
ABS樹脂/AES樹脂とGFRP/CFRPの比較まとめ
ABS樹脂、AES樹脂、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の特徴をそれぞれ比較表にまとめました。
素材名 | 特徴 | 強度 | 加工性 | コスト |
---|---|---|---|---|
ABS | ねばり強く、耐衝撃性に優れる | 高い | 成形加工が容易 | 低い |
AES | 軽量、高強度、耐衝撃性、 表面の仕上がりの美しさ |
高い | 成形加工が容易 | 高い |
ガラス繊維強化プラスチック | 強度と剛性がある、 耐候性など耐久性が高い |
高い | 成形加工が非常に容易 | 低い |
炭素繊維強化 プラスチック |
高い強度と剛性、超軽量、 表面の模様の美しさが特徴 |
非常に高い | 成形加工が難しい | 非常に高い |
-
ABS樹脂
- 強度、耐衝撃性に優れており、ねばり強く割れづらい。
- 成形加工性が良好で低コスト。大量生産に向いている。
- 耐候性が低いため、屋外使用の場合は塗膜でしっかり保護する必要がある。
-
AES樹脂
- ABSよりも軽量で、高い強度と表面の仕上がりの美しさが特徴
- ABSと比べて耐候性が改善している。
- 製造コストが高く、高級車や小ロット生産に向いている
-
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)
- 強度と剛性があり耐久性が高いが、衝撃には比較的弱く割れやすい
- 成形加工性が良好で造形が特に容易
- コストが比較的低いため、アフターパーツに使用されることが多い
-
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
- ずば抜けて高い強度と剛性、軽量、カーボンシート特有のレーシーな模様が特徴
- 成形加工が難しい場合がある。複雑な造形は特に技術が必要となる。
- 製造コストが非常に高く、高級車やレーシングカー、チューニングパーツなど、限られた用途に使用されている
まとめ:純正採用されるにはワケがある。ABS/AESは優秀な材質だった。
いかがでしたか?
エアロパーツや外装部品に使用される材料として、ABS樹脂とAES樹脂は非常に優れた特性を持っています。
繊維強化プラスチック素材とは異なりねばり強さや割れにくさがあり、なおかつ熱可塑性も持っているため、変形してしまった場合でも熱を加えて修復が可能です。
これらの特性上、バンパーやサイドモールなどのように頻繁にぶつかりやすい部位に使用され、メーカー純正の外装部品に多く採用されています。
耐久性や修復性に優れた部品として、私たちが普段何気なく乗るクルマの安全性や信頼性を向上させる縁の下の力持ちといえるでしょう。
クルマのパーツ選びは材質をよく理解することで、さらに豊かに、面白くなります!
それでは皆様、よいカーライフを!