工賃高くない?工賃ってどうやって算出されるの?持ち込み部品はなぜ工賃が高い?

工賃高くない?工賃ってどうやって算出されるの?持ち込み部品はなぜ工賃が高い?

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この記事へたどり着いた方は、率直に言って「お金にウルサイ」方だと思います。

お金がかかるのは仕方ない、でもワケもわからず言われたまま払うのは釈然としないし、納得して払いたいんだ…という真っ当な方から、「人が困ってるのにつけこんでウマイもん食ってるんだろう!」という陰謀論が大好きな方までさまざまかもしれませんが。

そういう方にとって「なんで車の工賃はお店によって違うの?持ち込みだと工賃が高いのはなんで?」と疑問に思うのは当然でしょうし、今回はその疑問にお答えします!

工賃の決まり方


意外と知られていないのが「工賃の決まり方」で、当たり前ですが商売でやっている以上、儲けがなければその商売を続けていけないのはコンビニでもラーメン屋でもクルマ屋でも変わりませんが、クルマ屋の場合ちょっと違うのは「原価」の考え方です。

小売業や飲食業で利益を出すなら、「高く売る」か「たくさん売る」

ザックリ言うと、食べ物なり雑貨なりを売る商売(小売業や飲食業)の場合、品物や材料を仕入れた「原価(仕入れ)」の合計と、それを売った「売上」の合計の差額から従業員の給与、家賃や光熱費など固定費を引いた金額が「利益」となります。
“売上の合計-原価の合計-給与や固定費=【小売業や飲食業における「利益」】”
安くてもたくさん売れば給与や固定費を支払っても儲けが出る「薄利多売」という販売方法はあるものの、これは「安ければたくさん売れる」という前提が必要で、いくら安くしてもたくさん売れない商売、たとえば食事に時間をかける高級レストランでは無理。

筆者が以前、とある商売で中古車店の社長から「おたくも薄利多売を心がけりゃ半額で売れるだろう!」と熱弁を振るわれましたが、
「そうは言いますがねぇ、社長だって今売ってるクルマを半額にしたら、薄利多売で儲かると思います?社長1人じゃ仕事も資金も回らなくて無理じゃないですか?ウチも同じですから、無茶言わんでください!」
と言い返したら、お前いい事言うな、確かにその通りで納得したと褒められました。

(※実際、昔アメリカのダグラスという飛行機メーカーは旅客機の傑作を作って大量注文が舞い込み黒字が確定していたにも関わらず、生産・販売に必要な資金不足で「黒字倒産」、他社に吸収合併、その他社も合併されて今はボーイングの一部なんて事例があります)

整備業では、「たくさん仕事して利益を出す」に限界がある

整備業界も高級レストランや中古車店の事例と同じ事で、どれだけ仕事が殺到しても「じゃあ急いで仕事して、たくさん儲けましょう」というのは不可能です。

小売業ならセルフレジや自動販売機、飲食業なら自動券売機や配膳ロボットへ仕事を振って、同じ時間内に少しでも売ろうとしますが、整備業はたくさん作業注文が来ても部品がたくさん売れるはずもなく、せめて作業時間を短縮しようと試みるのも、容易ではありません。

一応、メーカーの看板を上げたディーラーでは鈑金修理や塗装、分解整備など時間のかかる作業は自ら行わずに外注し、自社では時間のかからない部品交換しかしない、「整備工というより部品交換の作業員」化する事で、少しでも利益を出そうとしています。

しかし少しでも作業の回転を上げようと、「◯分車検!」など短時間車検を売りにしたディーラーが、実際はその時間で無理な作業を整備士に強いた結果、手抜き車検がバレて大問題になった…という事例もあり、儲けるための作業時間短縮は現実的ではありません。

限られた時間で儲けを出すなら、ある程度の工賃をもらわなければ商売として成り立ちませんし、安く早くの代わりに品質は保証できませんと事故など起こされた日には、整備した側が責任を取らされますから、そんな商売はしない方がマシなのです。

そもそも自動車整備の工賃には「基準」が存在する

ならば商売として成り立つ工賃とは、どうやって決まるのか…と言えば、「一般社団法人日本自動車整備振興会連合会」が、車種ごと、作業ごとの「標準作業点数表」を作っており、これが作業時間の基準となっています。

気になる方は「2022年版標準作業点数表」が8,690円で販売されていますし、2023年度以降は紙冊子から電子版になりますが、「FAINES」というプロの整備士向け整備情報提供システムの体験版で、いくつかの事例を参照できますから参考にしてください。

そして工賃は、「レバレート」と呼ばれる事業者ごとの時間工賃×標準作業点数表に書かれた作業時間で算出されるため、業者ごとに適当なドンブリ勘定で決めているわけではないのです。

工賃の違いはどこで出るのか?


いくつかの店や整備工場を回って工賃の見積もりを取った経験がある人なら、工賃が高い、安いといってもある程度の範囲内に収まっているのに気づいた人がいると思います。

工賃に関して不信感がある人は、「ある程度の範囲内とはいえ、違いが出る理由がわからない」のが理由でしょうから、次は工賃の違いが出る理由を説明します。

工賃の高い・安いは立地や企業規模など、さまざまな条件でも決まる

前項でレバレート(時間工賃)×標準作業点数表=工賃(技術料)と説明しました。

つまり違いが出るのは「レバレートの違い」と、「標準作業点数表にない作業の場合」の、2種類が代表的だと思ってください。

わかりやすいのはレバレートで、これは賃貸物件の事業者なら家賃、自社物件なら各種税金、そして光熱費などの固定費、整備士以外に事務員や、場合によっては営業担当なども含む従業員の給与、整備機材の購入・維持費用といった費用によって違います。

単純に考えれば、土地が安くて税金や家賃、人件費が安く、一般的な国産車をメインに扱う田舎の小規模整備工場ならレバレートは安くできますし、その逆に何もかもが高額になる都会の立派な外国車ディーラーならレバレートは高くなるのが当然です。

もちろん、少しでも仕事を増やすために多少無理してレバレートを安く設定する整備工場、他ではできない作業をするので強気なレバレートを設定する高級スーパーカーばかり扱うディーラーという構図もあります。

また、メーカーの看板を上げているディーラーの場合、そのメーカーとの契約で純正部品の使用を義務付けられており、品質は同等ながら安価に仕入れられる「純正同等品」を使えないことも、整備工賃が上がる要因ですが、一方でメーカーが責任を持って供給している部品だから、安心できるとも考えられるでしょう。

しかし、基本的には「自らの事業を維持・発展させていくために必要なレバレートが事業者の事情によって異なり、それが工賃の差になっている」と思って間違いありません。

イレギュラーな作業は、整備する側の理解度によりけり

また、「標準作業点数表にない作業の場合」、つまり手探りになるイレギュラーな作業には標準作業点数もなく、整備する側のサジ加減で工賃を設定せざるをえず、イレギュラーでも慣れている作業なら安く、全く未経験で調べるところから始めるようなら高くなるのは当然でしょう。

これを仮に「◯◯ではいくらって言ってたんだからその料金でやってよ!」と言われても、言われた方は全く割に合わない作業を強いられる可能性が高いので、「でしたらその◯◯でドーゾ」と(多少のオブラートに包みつつ)なるわけです。

もちろん、ただ仕事が欲しいから安易に安い見積もりを出し、結果的に大損した挙げ句、故障などトラブルの元になってしまう事業者もいるでしょうから、単純に工賃が安ければいい業者とは言えず、工賃より理解度(経験があるか)で選ぶのをオススメします。

持ち込み部品の工賃が高い理由


最近はネット通販で大抵の部品を個人で仕入れられますし、しかもそれが整備業者の見積もりより安かったりして、タイヤやホイール、油脂類など各種消耗品が代表的です。

しかしそれらを持ち込んで作業してもらおうとして断られたり、作業OKでも工賃が高くなる事に疑問を感じる人は多いようですが、実は単純な理由なので、簡単に説明しましょう。

儲からない仕事を安くするわけないですよね?

前項で、「事業者ごとの事情でレバレート(時間あたり工賃)は異なり、それが工賃の差である」と、工賃の仕組みを説明しましたが、作業する部品が「自社で仕入れるか、客が持ち込むか」も、レバレートが変わる事情のひとつです。

考えてみてほしいのですが、同じ部品でも整備業者が仕入れて売れば儲けになるのに、客が持ち込んだらその儲けはパーなわけで、同じ時間で作業しても儲けが減ってしまいます。

そりゃお客さんは安くなって嬉しいものの、整備業者からすれば単純に減収減益、作業時間は同じなので、早く終わらせて他の作業で取り返す「薄利多売」ができないのも最初の方で説明した通りです。

そんなんじゃ商売としてやっていけませんから、レバレートの方を変えて工賃を高くしなければ、その整備業者は潰れてしまいます。

「儲からない仕事を、ちゃんと儲かるようにする」これだけの話です。

その持ち込み、ウチでは責任取れないけど大丈夫?

もうちょっと突っ込んだ話をすると、持ち込み部品というのは整備業者にとっては預かり知らぬ、正体不明の品物なわけです。

付き合いのある問屋から仕入れた部品なら間違いありませんし、仮に間違いがあっても問屋に責任を取らせる事もできますが、個人のネット通販となると、「それ本当に本物なの?」や、「それ本当にこの車に使っていいの?」と、疑問だらけになります。

何しろネット通販というものは恐ろしいもので、「超激安タイヤを購入してみたら、実は某国かどこかで作った、一応はタイヤの形をしている黒いゴムの塊だった」なんて普通にあり、内部構造など存在しないのでハサミでジョキジョキ切れた、なんて話まであるのです。

また、某有名ブランド製ショックアブソーバーのオーバーホールを依頼され、メーカーに送ったところ「これ確かに見た目ソックリですけど、中身ウチのじゃないですね…某国製のパチもんですわ」

整備業者からすると、そんな怪しいブツに関わるだけで手間賃も取れず時間の無駄、損失でしかありませんから、君子危うきに近寄らず…と持ち込みNGにしている業者は、むしろ常識的です。

それでも持ち込みOKとしているところは、客の身に立った優しい整備業者…というより、競技系やカスタム系のショップで有象無象の社外品に慣れているツワモノか、仕事を選んでいられない業者のどちらかでしょう。

前者の場合はいろいろと経験済みなので、「言われたからやるけど責任は持たないからね?」としっかり言う事は言いますし、そういうところで頼む客も心得たものですから、高い工賃を払っても最終的に問題なければ万歳ですし、製品そのものが原因でのクレームもしません。

ただし怪しい激安製品や中古品に気をつければ、誰もが幸せ

脅かすような話ばかりしてしまいましたが、通販業者でも定評ある大手や、有名メーカー品でもおよそコピーなど出回りそうもないマイナー車用、マイナー製品なら、個人でも安心して安く仕入れられます。

怖いのはあくまで「有名ブランドの高額品が驚きの大特価!」など超格安を売りにした無名業者や、元々の出どころがよくわからない個人売買の中古品や経年劣化した新古品ですから、それらを避ければ工賃が高くともトータルでは安上がりです。

また、整備業者の方でも取るべき工賃はしっかり取っていますから、部品の仕入れが発生しないだけ楽で儲けも出ており、部品持ち込みもうまく使えば、誰もが幸せになるWin-Winとなります。

納得いくまで勉強と思うのもアリ


今回は自動車整備の工賃についての算出方法と、割高な持ち込み工賃について説明しましたが、アチコチで見積もりを取った時に工賃の違いを見て「あそこはこういう事情があって高めなのかな」と想像できるようになったと思います。

整備業者とやり取りを何度もしているうち、なんとなく雰囲気が読めてきたり、気心が知れた業者なら「変に安くするより間違いがないように頼む」とオーダーするようになるものです。

また、この説明を見たうえで、どうしても疑問が続くようなら、何か簡単なものでもいいですから、自分で何か整備作業をしてみるのをオススメします。

たっぷりかけた時間で他に何か有意義なことができたのではないか、必要になって購入した割に、次はいつ使うかわからない工具や、その保管にお金をかける意味は…と実感してみると、整備のプロに工賃を払う意味が身にしみて理解できるかもしれません。

あるいは逆に、どうせお金を払うなら自分でどこまでできるかやってみよう、とDIY魂に火がつけば、それはそれでこれからのカーライフが楽しくなるかもしれないですね。

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