自動車とは単純に考えれば、「走る」「曲がる」「止まる」の3つを繰り返すだけの乗り物ですが、一番重要な「止まる」に必要不可欠なのがブレーキの部品です。
今回は安価な実用車でもフロントに、高価な車や高性能車ならリヤにも使われているブレーキパーツ、「ブレーキパッド」の交換や費用について解説しましょう。
摩擦で減速させるブレーキパッドは、定期交換が必要な消耗品
最近は自動車が100年に一度の大規模な過渡期に入っていて、いろいろな方式の自動車が走っている関係上、ブレーキの説明も単純ではありません。
EV(電気自動車)やHV(ハイブリッドカー)なら、タイヤの回転を発電用モーターに伝えてバッテリーへの充電に使う「回生ブレーキ」、あるいはアクセルペダルを緩めるだけで抵抗になってブレーキペダルを踏んだのと同じ役割を果たす「ワンペダル走行」もあります。
しかし、昔ながらの自動車に装備され、さらに新世代車でも安全確実にブレーキをかける方法として維持されているのが油圧ブレーキで、基本的には油圧で部品同士を押し付け、そこで生じる摩擦でブレーキとしての高価を発揮させるものです。
中でも、放熱性が高くて安定した性能を発揮可能、耐フェード性能が高くてブレーキ故障につながりにくいという理由で、実用車でもフロントに、高級車や高性能車ではリヤにも広く採用されているのが「ディスクブレーキ」。
タイヤとともに回転するブレーキディスクへ、ブレーキパッドと呼ばれる摩擦材を油圧で押し付ける方式で、もうひとつの方式「ドラムブレーキ」におけるブレーキシュー(摩擦材)ともども、性能を維持するため定期交換、場合によってはすぐ交換が必要な場合もある、消耗品です。
ブレーキパッドの交換タイミングを知ろう
ブレーキパッドで消耗するのは、ベースプレートに貼り付けられてブレーキローターに直接押し付けられる摩擦材で、通常は摩耗しきるギリギリまで性能を発揮するものの、完全に摩耗してベースプレートがむき出しになると、もうブレーキとしては役に立ちません。
無理にブレーキをかけてもブレーキローターを傷つけ、すり減り、ついには破損させるか、それ以前にノーブレーキで事故を起こすだけなので、車を利用するドライバーは、交換タイミングと、その確認方法を熟知していなければなりません。
パッド残量の直接目視確認
タイヤホイールを外さないと目視点検は難しいものの、フロントならハンドルを左右どちらかへ目一杯切れば、キャリパーののぞき穴を容易に確認可能です。
なお、この際に注意しなければいけないのは「ブレーキパッドは表裏両方に存在する」ことで、表(または裏)だけ摩擦材があるからと安心せず、もう一方の残量も確認しましょう。
理由は後述しますが、表裏どちらかだけが極端に摩耗する事は、実際にあります。
一般的にの摩擦材は新品だと10mm程度の厚みがあり、5mmを切った時点で交換を検討し始めます。
通常の乗り方ならば次の車検で交換と考えてよいのですが、3mm程度で車検までの期間が長い場合は車検前に他の点検のついで、2mm以下になったらベースプレートがローターへ接触する可能性が出るため、可能な限り即時交換です。
また、車検や他の定期点検時にもブレーキパッドが交換されているか、交換していないなら点検した結果として不要だったのかは必ず確認してください(自ら目視点検するのが確実です)。
あまり考えたくありませんが、悪質な業者だと「車検さえ通れば次の車検までパッド残量がもつかはユーザー責任」と無責任な場合もありますし、そうでなくともうっかりミスは起こりえるほか、本来このような「運行前点検」は、ドライバーの義務です。
タイヤの回転に合わせた異音は、ブレーキパッド交換時期かも?
この場合、パッドが摩耗するとローターに接触した金属ピンが、タイヤの回転に応じた異音を発し、パッド交換時期を知らせてくれるのです。
タイヤの回転に連動した異音の原因は他にもあるため、必ずパッド残量に関わるとは限りませんが、少なくとも回転に連動した異音がしたら、真っ先にブレーキパッドは点検しましょう。
また、最近は上記のような機械式インジケーターだけでなく、パッド内の電線が切れてメーターパネルのブレーキ警告灯が点灯する、電子式インジケーターもあります。
ブレーキフルード量を目安とする
そのため、ブレーキフルードタンクの量が、タンク壁面の「MIN」に近づくか、切るようであればパッド交換時期の目安です。
そこで「ブレーキフルードが減ってしまった」と補充してしまってはフルード残量による確認ができなくなりますから、注意してください。
あまりアテにならない走行距離からの推測
ただし、ブレーキを踏む機会の少ない高速道路走行がメイン、ハードなブレーキングを繰り返すスポーツ走行を時々でも行う、耐久性(耐摩耗性)より走行性能重視の社外品パッドへ交換しているなど、走行距離とパッド摩耗量の関係性が変化するケースは多数あるため、他の交換タイミング目安と比べ、あまりアテになりません。
ブレーキパッドの交換費用
よほど特殊、かつ高価な純正部品が必須とされる車でもなければ、純正または純正相当のブレーキパッド交換費用は、さほど高額ではありません。
ブレーキが原因で事故を引き起こす可能性を考えれば、多少高いと思っても交換してしまう方が、よほど安あがりです。
交換にはパッド本体+工賃+αが必要な場合も
経年劣化や利用状況によってはブレーキローターが摩耗したり反り返っている事が考えられますし、キャリパーが開いてうまくパッドを挟めない、キャリパーのピストンが固着して、ピストン周り一式の部品が必要になるなど、追加費用がかかる可能性はたくさんあります。
特に中古車や過走行車ではこの種の追加費用が発生しがちですが、性能の根幹、「止まる(減速する)」ができない車など動かせませんから、十分な費用をかけましょう。
どうせ費用がかかるならと、12ヶ月点検や車検整備など、定期整備の際に交換してしまうのが、もっとも負担が少ないと思います。
大まかな工賃の目安
特にスポーツカーなど特殊な車の場合は、その車に精通したショップでないと、正確な交換作業が行われていない可能性もあります。
ブレーキパッドのセルフ交換は可能か?
ブレーキパッド交換はディーラーに限らず、性能は純正相当で安価な社外品を使ってくれるカー用品店や小規模ショップへ依頼すると少し安くなりますし、技術力のあるショップならディーラー同様にパッドとローターの接触面を合わせる面取りだってしてくれます。
さらに限界まで安くするとなれば、カー用品店や通販でブレーキパッドを購入し、自分で交換して工賃を浮かす事でしょう。
セルフ交換の注意点を考えれば、とてもオススメできない
また、ブレーキパッドを外してみたらローターに研磨や交換の必要性が出た、キャリパーのピストンが固着していた、という追加整備が発生した場合、パッドをポン付けで交換すればいい程度だと思っていた人には、とても対応できないでしょう。
それどころか、プロなら気づける問題点、不具合箇所に気づかないことも十分に考えられるため、元整備士ならともかく、全くの素人は手を出さない事を強くオススメします。
そのため、この記事では「セルフ交換するために必要な工具」などは、あえて紹介しません。
国産とは異なる、輸入車ならではのワンポイントアドバイス!
最後に、日本国内で販売されている国産車と、国産でも海外向けモデルの並行輸入車、さらに輸入車の大半では、高速道路の線形や制限速度の違いを理由として、ブレーキパッドの素材や特性が大きく異なります。
日本の高速道路は、制限速度が80~120km/h程度で超高速域からのブレーキングを必要とせず、山がちな地形でアップダウンや急カーブも多いため、制動性能より耐摩耗性が重視されます。
それに対し海外、特に制限速度無制限区間すら存在するドイツのアウトバーンでは、超高速域からの制動性能が最優先されるからです。
日本で一般的な輸入車はブレーキダストが多い
そのため、ブレーキパッドには高温域での耐摩耗性と制動能力に優れた金属素材の配合率が高く、ブレーキをかけた時にパッドだけでなくローターも削るほど攻撃性が高いため、国産車に比べて猛烈なブレーキダストが発生します。
そのため、マメに洗車をしないとホイールは真っ黒でアルミホイールすらダストのサビが発生しますし、ボディにさえダストが食い込み塗膜を痛め、日本では不必要な性能により、維持の手間が増えるのが問題です。
日本向けに、ダストが少ない社外品も発売されている
近年では安価でも純正相当、またはそれ以上の性能を発揮するブレーキパーツで定評を得ているDIXCEL(大阪府摂津市)のように、輸入車用ブレーキパッドに力を入れているメーカーもあるため、輸入車ユーザーならば積極的に選択肢に入れてよいでしょう。