自動車に欠かせない三大要素は「走る、曲がる、止まる」で、この3つが揃っていればとりあえず自動車として成立してしまう…という基本的なことですが、中でも重要なのは「止まる」、つまりブレーキです。
走っても止まれなければそれは暴走ですし、減速できなければ曲がることもできない、そういう意味で「自動車にとってもっとも大事なのはブレーキ!」。
そんなブレーキは消耗部品であり、点検整備の際に状況に応じて交換せねばなりませんが、その時に新車から装着された純正品と、アフターパーツメーカーが販売している社外品、どちらがいいだろう…と迷う人もいるでしょう。
また、新車時の性能が芳しくない…と社外品を検討する人もいると思いますが、今回は多くの自動車に採用される「ブレーキパッド」の純正品・社外品のメリットとデメリットを紹介します。
ブレーキディスクを挟んだ摩擦で減速・停止させる「ブレーキパッド」
自動車のブレーキパーツといってもさまざまですが、乗用車の多くでは前輪に、ある程度以上の価格のクルマや高性能車では後輪にも採用されているのが、ディスクブレーキという方式(※)。
(※ドラムと呼ばれる円筒の内側へ、ブレーキシューという摩擦材を押し付ける「ドラムブレーキ」もあり、軽自動車や小型車など安価なクルマの後輪に多用されます)
ディスクブレーキはその名の通り、タイヤとともに回転する「ブレーキディスク」、あるいは「ブレーキローター」とも呼ばれる円盤状の部品へ、表面に摩擦材を貼り付けた2つの「ブレーキパッド」を表裏から挟んで押し付け回転を抑え、停止させる構造です。
ブレーキディスク自体もすり減る消耗品ですが、摩耗が早くて頻繁な交換を要求されるのは、摩擦材を貼り付けた「ブレーキパッド」の方。
最近のハイブリッド車やBEV(バッテリー式電気自動車)なら、タイヤの回転を発電機で吸収、減速エネルギーを電気に転換する「回生ブレーキ」も使いますが、現時点ではどんなクルマでも摩擦力を使ったブレーキは廃止できていません。
その中でもブレーキディスクとブレーキパッドを使ったディスクブレーキは、自動車用ブレーキの主流と言ってよいでしょう。
その車種への最適化と、国産車では耐久性も重視した純正品
多くの自動車用部品、特に消耗品と同様、交換部品には自動車メーカーが供給する「純正品」と、アフターパーツメーカーが販売し、ショップなどで交換する「社外品」が存在しますが、まずは純正品のメリットとデメリットを紹介していきましょう。
純正品のメリット
- 確実な供給で入手が容易
- その車種への最適化
- 何も考えずにディーラーへ任せたい時の定番
純正ブレーキパッドのメリットとはおおむね上記の3点で、特にクルマへのコダワリは持たず、購入から乗り換え(または純粋な廃車)まで、車検も点検整備も修理も全部ディーラーにオマカセ、ショップで何にしようかなど考えたくもない、という人はこれで問題ナシ!
何しろ「その車種へ装着するために選ばれた、または新たに開発された部品」ですから、ほとんどの場合は純正品で問題が生じることはありませんし、新しすぎる新型車だから、マイナーすぎるからと社外品がなくとも、よほど古いクルマでなければ純正品はあります。
さらに日本国内での使用を前提とした国産車の場合、一般道はたいてい60km/h上限、高速道路でも100~120km/h上限で、海外のように極端に高いブレーキ性能は求められず、耐久性重視の素材を使って寿命の長いブレーキパッドであることも、純正品の特徴です。
また、ブレーキパッドの裏側に装着し、ブレーキの鳴き止めなどの役割を持つ「シム」という部品は純正品など同梱されていることが多いため、車種によってはシムの劣化で交換を要する際に、社外品への交換でもシムのため純正品が必要なケースがあるかもしれません。
純正品のデメリット
- 輸入車だとブレーキダストが多めでローターともども摩耗が早い
- 車種によっては性能やフィーリングに不安がある
何も考えずにクルマにただ乗り続けたい…という目的には最適な純正品ですが、一般的には社外品と比べて高価であり、ちょっと手間をかけても部品を選んで社外品に交換し、維持費をコストダウンしたい…という需要があるほどです。
また、輸入車…特に制限速度無制限区間まで存在し、日本では考えもつかない速度での超高速巡航すら想定されるドイツのアウトバーンを走れなければいけないヨーロッパ車の場合、制動性能を重視したブレーキパッドが純正品で使われます。
その結果、確かに国産車より高速から安定したブレーキ性能を発揮するのは確かですが、猛烈な摩擦力はブレーキパッドのみならず、ブレーキディスクをも急激に削る「攻撃性の高さ」も国産車の比ではなく、ブレーキダストと呼ばれる粉を大量に撒き散らすのです。
このブレーキダストはタイヤホイール、場合によっては車体にまでこびりつき、摩擦材の素材に含まれた金属はサビの温床になりますから、「サビにくいアルミホイールなのに、なぜかサビだらけに?!」という事態もありえます。
このブレーキダスト問題はヨーロッパでもかなり深刻らしく、燃費や排ガス、騒音規制の次はブレーキやタイヤが摩耗した時のダストまで規制されると言われており、将来的には改善されるかもしれませんが、現時点ではメーカーの反対もあって見通しが立っていません。
また、国産車でも強力なブレーキ性能を求める高性能車では耐久性より制動性能を重視する傾向ですが、ごく一部の特殊な「レースや競技のベース車」では、むしろ高性能な社外品への交換を前提に、性能に見合わない耐久性重視の純正品が使われることもあります。
こうしたベース車でも、止まらないのはマズイので制動性能はあるものの、動力性能に対し不安を感じるほどスカスカなフィーリング…たとえばブレーキペダルを踏んでも止まり始める気配が薄い…などの問題があり、その場合は社外品に交換するしかありません(※)。
(※筆者が以前乗っていたダイハツ ストーリアX4がその代表格で、純正品のフィーリングがあまりに劣悪なため、「買ったら何でもいいからパッドは社外品へ即交換」と言われていました)
性能、用途、好みに応じたカスタマイズが可能な社外品
輸入車や国産でもとびきり高性能なクルマ、特殊なクルマな場合を除き、「何も考えずに気楽なカーライフを過ごしたいなら純正品でOK」なわけですが、中にはちょっと攻めた走りをしたいので性能重視、あるいはフィーリング重視で社外品を求める人もいます。
そうした場合に頭に入れておくべき、社外品のメリットとデメリットを紹介しましょう。
社外品のメリット
- 純正品と性能は同等または上等
- 摩擦材の種類が豊富で、用途に応じた選択が可能
「別に純正で不満は感じないんだけど」という人でも、社外品の価格を見ればその安さに驚く人は多いと思います。
もちろん製品や性能によって値段はピンキリで、安い社外品は純正より性能が落ちるんじゃないの…と思いがちですが、実は最低でも性能は同等、またはよほど上等で、車種によっては安い社外品に交換し、一度ブレーキペダルを踏むだけで違いが歴然!という場合も。
もちろん、純正とは異なるフィーリングを楽しみたい、あるいは一般道を普通に走るのではなく、モータースポーツなど限界に挑む走行を楽しみたいというユーザーなら、それに応じた摩擦材を使った、高価ではあるものの高性能のブレーキパッドを選ぶことも可能です。
ブレーキパッドはブレーキ時にすさまじい摩擦熱を発しますが、その許容温度域は摩擦材の素材によって異なり、許容以上の温度を発するブレーキ…レーシングスピードからの制動や、パッドの熱が冷める時間がないほど急激な急制動を繰り返すと、どうなるか。
許容以上の熱が入ったパッドは焼けて表面が炭化し、本来の摩擦材としての性能を発揮できずに、極端な場合はブレーキとしての役目をほとんど果たさなくなります。
そのため、過酷なブレーキングが要求される用途では許容温度域が高めの(あるいは広めの)ブレーキパッドへの交換が要求されますが、そこまでの用途だとブレーキディスクなど他の部品や、油圧に使うブレーキフルードも交換することが多いです。
また、ブレーキパッドは単に摩擦力を発揮するだけでなく、「強く踏めば強い効き、弱めてもほどほどの効きと、ブレーキペダルを踏む力加減でコントロール」できるものですが、社外品では素材の違いで、コントロール性をハッキリさせた製品も存在します。
純正品ではあくまで新車時に一般道を通常の使用で問題ない範囲の、耐久性(耐摩耗性・寿命)を重視したブレーキパッドが多く、オプションでも高性能パッドが用意されていることは少ないため、社外品へ交換するのが最適でしょう。
社外品のデメリット
- 選択を誤ると性能低下、事故の原因にもなる
- 前後のブレーキバランスを崩して不安定になる車種もある
- ブレーキディスクやブレーキキャリパーも社外品へ交換するなど、意外に費用がかかる
用途や好みに応じた豊富なラインナップが特徴でありメリットでもある社外品ブレーキパッドですが、当然ながら「選べる」ことは「選択を誤る」可能性も出てくるわけです。
サーキット走行に適合した、超高温対応…ただし低温では全く効かないブレーキパッドを、真冬やそれ以外でも雨天時に使用した場合、特に走り出してすぐなどブレーキパッドの摩擦材が、その性能を全く発揮しません…そういう前提の部品だから当たり前。
また、低温から中温域までよく効くパッド、それも摩擦性能のよい素材を使ったパッドを使って前輪だけブレーキ性能を強化した結果、ブレーキを踏めば常にフロント荷重、リアの荷重はすっぽ抜けてテールハッピーなセッティングになると、安心して乗れません。
もちろん「そういう前提で組んだのだから、普段の運転は注意するのだ」と理解していればよいのですが、何も考えずにすごそうなブレーキパッドに交換した結果、すぐ事故を起こすという可能性もありえます。
最近のクルマ…おおむね2000年代以降に開発されたクルマなら、ABSを応用した電子制御の前後ブレーキ配分が行われるので、極端に安定感を損なうことは少ないものの、最近ブームの旧車はそんな親切な制御は入っていないので、注意した方がよいでしょう。
また、制動性能が強力なブレーキパッドは、輸入車や国産高性能車の純正品と同様に、「ブレーキディスクへの攻撃性」と、「ブレーキダストの多さ」という問題があります。
もともと耐久性重視の純正パッドが装着された車種では、それに加えて「高性能ブレーキパッドが発する熱に耐えられる素材や形状、あるいは炭化して性能低下するブレーキパッドの表面を削るタイプのブレーキディスクへ交換する必要性」も見逃せません。
熱に対応したカーボン製ディスクや、放熱性が高いドリルドローター(ディスク)、パッド表面を削って性能を維持するスリットローター(ディスク)といった製品に交換しないと、すぐにブレーキパッドの性能が低下したり、場合によっては熱でディスクが歪みます。
また、ブレーキ性能をさらに強化すべく、ブレーキパッドを装着する「ブレーキキャリパー」と呼ばれる部品を高性能なものへ強化する必要が出てきたりと、高性能化を目的としたブレーキチューニングは、徹底していかないと事故の原因になるのを理解しましょう。
なお、社外品には純正品の項で説明した「シム」は付属していないことが多いのですが、ブレーキパッドメーカーでシムを別売りしている場合もあります。
結局、ブレーキパッドは社外と純正どっちがいいの?
最後に、それぞれのメリットとデメリットを踏まえた「ブレーキパッド交換は純正品と社外品、ドッチがいい?」ですが、これはクルマとの付き合い方によりけりでしょう。
チューニングやドレスアップといったカスタムとは無縁な人でも、ディーラーに全てオマカセで深く考えたくない人なら純正品、ガソリンスタンドや整備工場など、身近なショップでも社外品を扱える人なら、純正同等でも安価な社外品がオススメです。
積極的にカスタムして、その内容に応じたブレーキパッドを使いたい…という人ならショップと相談してトータル性能を考えたカスタムを、または整備に必要な資格を持っているなら自分で考え、社外品で愛車に最適なブレーキを選び、組み込んでください。