クルマ好きなら大なり小なり、一度は何か試した…という人が多いであろう「チューニング」、一般的には「改造」と解釈される事が多いものの、実際は楽器の調律でもチューニングというように、自動車でも何かを「調整」する事を指します。
つまり工場から出荷され、新車として納車された「純正=フルノーマル」から何らかの変化を与える事になりますが、メーカーが「いろいろな意味で最適」(※必ずしも最適な性能・状態というわけではない)とした状態から変化させる事は何を意味するのか?
チューニングの意味と、得られるもの、そして正しく理解していなければ失うものばかり多くて無意味になりかねないリスクまで紹介します。
「最適」とは限らない!チューニングの前に理解しておこう「ノーマル」の意味
クルマのチューニングについて説明する前に、まず「純正状態=フルノーマル」(以下、「ノーマル」)の意味を理解しておかねばならないでしょう。
ノーマルとは自動車メーカーがそのクルマを企画・開発し、販売する市場で必要な国などの認可を得て、生産体制や販売体制も整えた状態に「最適化」した状態を指します。
「メーカーが最適とした状態がノーマルだから、ノーマルこそがそのクルマのあるべき姿であり、ノーマルこそが正しい!」という”ノーマル至上主義”を目にする事もありますが、それは必ずしも正解とは言えません。
クルマとは、市販車かどうかに関わらずユーザーが購入し、使用できなければ意味がありませんから、購入できる価格、使用するのにハードルとなる法規や、レーシングカーであろうとも規則の範囲内に収まる必要があります。
また、多人数乗車で快適に長距離ドライブする事を主目的としたクルマへ、レーシングカー並の速さでサーキットを周回できる能力を与える事にさほど意味はありませんし、逆にスピード重視のクルマへ後席用のエアコンや冷蔵庫をつけても仕方がないわけです。
誰が、どのような場所で、どのように使い、どのように走り、どのくらいの価格で販売し、販売するディーラーでサービス(点検や整備)が可能かまでを考え抜いた果てにたどりつく最適解が「ノーマル」と思えばよいでしょう。
その結果、メーカーがコストの関係や、ユーザーの要望が少ないからと妥協、省略した部分などいくらでもありますし、購入するユーザーが想定する用途によっては、メーカーがたどりついたものと、「最適解」が異なる場合だってあるわけです。
そこをユーザーの意思に従って、法律や規則の範囲内で「調整」していくのがチューニングというわけで…必ずしも改造や部品交換を伴うとは限りません。
ノーマルのシートでは座面が低すぎ、自分の身長(座高)では前方視界が悪いからと座布団一枚敷くのだって、立派に「ノーマルからチューニング」ですよ!
そう考えると、改造や部品交換というより、服や靴などを自分に合わせる「オーダーメイド」に近いかもしれませんね。
なぜノーマルからチューニングする必要があるのか?
前項をまとめると、「メーカーの最適解がユーザーにとっても最適とは限らない、だからこそユーザーにとっての最適を求め、調整するのがチューニング」というわけです。
一般的には走行性能の向上を目的とした「調整」がチューニングとされますが、見た目の魅力を向上するドレスアップだって、そのうえでマトモに走らせて実用に供するならさまざまな「調整」を要しますから、チューニングの一種と言えるでしょう。
ではなぜ、チューニングが必要なのか…といえば、大雑把に言って理由は2つに分けられるでしょう。
いずれもノーマルの「メーカーが定めた最適解」では達成できない事であり、そのためにチューニングという行為が存在します。
1.そのクルマで競い、何らかの成果を上げる
「競う」と言えばレースや競技での勝利を目指すイメージですが、ドレスアップのコンクールで賞を狙うのだって、立派に「競う」ですから、やはり性能だけでなくドレスアップも大事。
この場合、競うステージによって規則が決められていますし、必ずしも公道で走れる機能の維持は必要とされないため、かなり過激なチューニングが求められる事になります。
場合によっては、規則に沿っているかを検証する主催者を出し抜くようなチューニングも…日本では卑怯と非難される事もありますが、文化の違いで「尽くすべきベストのひとつ」とされる場合もあり、それを得意とするチューナーもいるのが面白いところです。
2.好みや個性を反映させた、自分だけの1台を作る
何かと競うわけではなく、とにかく「自分だけの1台が欲しい!」とチューニングする場合もあり、何でもアリだからと過激になるかと思えば、成果も求める必要もないぶん、内容としては控えめな傾向が多いように感じられます。
理屈にかなった合理的な考え方より、個性を重視するため、コンクールに出すわけでもないドレスアップ目的のチューニングが多いと言えるでしょう。
改造や部品交換だけではない!チューニングの方法
ではチューニングとは具体的にどのような方法があるか…今回は、たとえばエンジンチューンならこうする、足回りならこうする、という細かい解説は抜きにして、基本的に共通な行為を手頃な順からいくつか紹介します。
1.貼るだけで気分は5馬力アップ?「見た目の変化」
昔なら貼るだけで性能アップなんてホントなの?と疑われたものですが、帯電した静電気を放出するアルミテープを使った純正チューニングがトヨタ車で行われている事もあり、一般にも広く知られるようになりました。
しかしここで知ってほしいのは「ステッカーチューン」による見た目の変化…もちろん性能など上がりませんが、クルマへ乗り込む前のモチベーションに関わる以上はチューニングの一種と捉えても良いでしょう。
カッコいいステッカーを貼れば5馬力アップ…なんてのも、5馬力分のモチベーションを引き出すパーツと思えばバカにできませんし、何より早くて安いチューニングです!
2.ノーマルから文字通りの「調整」
実際にクルマに何がしかの手をつけるチューニングで、初歩中の初歩となるのがノーマルのままで可能な各種の調整でしょう。
足回りのトー、キャンバー、キャスター角や、タイヤの空気圧を調整するだけでもクルマの動きは全く変わってきますし、シートポジションやステアリングの角度を変えて運転しやすくするのも、立派なチューニングです。
他にも純正リアウイングの角度を調整できたり、電子制御サスペンションのモード変更など車種によってはノーマルでもやれることは結構あります。
あとはフロアの遮音材、不要な装備品を全て撤去するだけでも全て積み重ねれば大幅な軽量化につながる場合もありますし、何よりお金がかかりません。
これらは社外パーツを使用した、より本格的なチューニングを行った後でも当然有効ですから、一通り手をつけておくのをオススメします。
3.時には加工や調整も伴う「部品交換」
一般的な「チューニング」のイメージはここからだと思いますが、「メーカーによる最適化」を受けた部品を、「ユーザーにとっての最適化」につなげるべく交換していくのは、本格的ではあるものの、比較的容易なチューニングと言えるでしょう。
もっとも簡単かつ身近な部品交換は「タイヤ交換」で、より性能の高いタイヤ、軽量なアルミホイールへ交換するほか、ホイールナット(あるいはホイールボルト)を軽量素材へ変えたり、スペーサーでトレッドを拡大する事も含みます。
あとは足回り、ボディパーツ、電装系、燃料系、内装、コンピューターと交換できる部品は多種多彩で、極めつけはエンジンまでゴッソリ変える「エンジンスワップ」や、フロント周りを他車種のものへ変えてしまう「フェイスリフト(顔面スワップ)」といったものまで。
クルマの各部品を高性能、軽量、頑丈といったものへ交換していくことで、性能アップ、耐久性アップ、ドレスアップといった要素を持たせていきますが、基本的にはボルトオン、つまり無加工で交換できるものが手軽です。
中には交換時にノーマルのままな部分へ加工を施したり、部品交換によってバランスが崩れるので他の部分を調整、あるいは強化する必要が出る場合もあり、その場合は次で紹介する「改造」のカテゴリーに入るでしょう。
4.もっとも大掛かりな「改造」
もっとも大掛かりな作業であり、チューニングをやるならここまでしてみたい!という憧れ、しかし費用も高額になるのでなかなか手につかないのが「改造」でしょうか。
厳密に言うと、「改造」とは車検証で型式末尾に「改」がつく、いわゆる「マル改」を指す場合も多いのですが、部品交換の結果として車検証の記載事項が変更されたことの証明で、書類などを提出してマル改を要する場合もあり、何かを改造して…とは限りません。
この記事で紹介したい「改造」とは文字通りの切った貼ったで、フロントエンジン車をミッドシップにしたり、単純なリジッドサスをマルチリンクへするなど、クルマの構造から根本的に変えてしまうものです。
性能も根本から変えるのみならず、車高をペタペタに下げるドレスアップでもタイヤハウスの構造を(必要なら足回りその他も)変えてしまう必要になるなど、本格的なレーシングカーや競技車両、気合の入ったドレスアップカーでなければ、普通はやりません。
ここまでやると「チューニング=調整」というより、ベース車のカタチを残した何かを新しく作る…くらいになりますが、中には中身だけ大改造してエンジン大排気量化、クロスミッション化、足回り変更…と玄人好みな、「羊の皮を被った狼仕様」もあります。
いいか悪いかはユーザー次第!チューニングの功罪とは
「ユーザーにとって最適化すべく調整する行為」がチューニングなので、まず大事なのはユーザーにとって最適とは何ぞや?を把握することであり、何が最適かも定まっていなければ、チューニングをしてもロクな事にはなりません。
もちろん、チューニング自体が勉強や試練であり、一度や二度は失敗しても楽しみのうち…という「トライ&エラー」な考え方もありますが、資金や時間に余裕がなくて最短距離を取らざるを得ないユーザーのため、2つのチューニング例を紹介しましょう。
そのうえで、得られるものが何か、失うかもしれないものは何かを、実際にチューニングする前によく考えてみてください。
ケース1:高性能ならイイってものではないブレーキチューン
ホイールの内径や形状によっては見た目にも大きく関わるパーツのため、他車種流用なので大径ローターを組みたがる人も多いブレーキチューンですが、単純なドレスアップ目的であればともかく、性能的には大径ローターにすれば効きが良くなるとは限りません。
確かに大径ローターやブレンボなどの高性能キャリパーを使い、ブレーキパッドも大きくなればローターと摩材の接触面積が増えて制動力は増加しますし、放熱性も上がって長時間の熱が入るサーキットのような環境では有利な場合もあるでしょう。
一方で、ブレーキパーツの大型化はカーボンなど軽量素材を使わなければ重量増加を伴いますし、クルマの四肢末端に近い部分の重量が増えれば慣性も増加、旋回性能やサスペンションの追従性に悪影響を及ぼす場合もあります。
街乗りなら乗り心地や操縦性が多少悪化する程度で済むかもしれませんが、スピードレンジが低いため絶対的な制動力がさほど要求さず、Rのキツイコーナーが連続するミニサーキットやジムカーナなどでは、旋回性能への悪影響の方が大きいかもしれません。
そういう場合は、ブレーキパーツの大径化を図るとしても同車種上級グレードの純正設定サイズまで、それ以上はスポーツパッドへの交換や、スリットローター、ドリルドローターといった、パッドの炭化した接触面を削る効果が期待できるローター加工をオススメします。
また、ABSなどの電子制御と、ブレーキチューンのマッチングが車種によってうまくいかず期待した性能を発揮できない場合もあり、そうした制御の入る新しい車種ほど、メーカーが適合を確認していないアフターパーツや流用パーツの装着には慎重になるべきです。
ケース2:性能も大事だが車検はもっと大事な吸排気チューン
チューニングといえば真っ先に思い浮かびそうなエンジンチューンは、エンジン本体からさまざまな補機類、さらに内部の細かい部分まで多岐に渡りますが、ここではもっとも身近と言える吸排気系のチューニングについて触れましょう。
中でも簡単なのは吸気側のエアクリーナー交換、排気側のマフラー交換ですが、どちらもその効果とリスクについては正しく理解している必要があります。
まずエアクリーナー交換、これは純正のエアクリボックスを使ったままで、通気性のよい素材や形状とした純正交換タイプと、エアクリボックスを外してキノコ型や円錐形の大型エアクリーナーを装着するムキ出しタイプが一般的です。
もちろん大型で吸気面積の広いムキ出しタイプの方が同じ時間でもより多くの空気を吸えますが、エンジンルーム内で正しく隔壁を設けないと、エンジンの熱で空気密度の下がった熱気を吸い込むため、燃焼効率が良くなるとは限りません。
また、純正では吸気系の長さや径で最適化されている吸気の慣性効果がエアクリーナーのチューニングで十分に得られず、吸気効率が低下する場合もあるため、スロットルも含めた吸気系全体、できれば排気系も含めたトータルでのチューニングが必要となります。
排気系のマフラー交換でも同じく、ただ闇雲に大径化しても排気の慣性効果が十分に得られず「抜けの悪い」マフラーとなって、低回転では吹け上がりが悪く、高回転域でしかマトモに走らないエンジンになってしまう可能性があるわけです。
アフターパーツメーカーが、「その車種に適合している」とされたマフラーなら、吸気系でよほどバランスの崩れるチューンでもしない限りその種の問題は起きず、むしろ実用域から高回転まで気持ちよく使えるはずですが、問題は他車種流用の場合。
特に同車種でターボ車用のマフラーを自然吸気エンジン車へ流用した場合、期待した性能が得られないばかりか、消音効果も期待されるタービンが存在しないため排気音量で車検不適合となる可能性が高くなります。
「とりあえずやってみようのトライ&エラー精神」も良いのですが、それはあくまで保安基準に適合していればの話になるため、マフラーだけは公道を走るなら見た目さえ良ければいいと適当なものへ交換せず、車検適合が明らかなものを使ってほしいものです。
自分でやるならどこまで楽しみ、どこからプロにまかせるかが大事
クルマをノーマルで乗るだけでは満足せずに「調整」を行うチューニングですが、期待した効果を得るためにはユーザー自らが用途や好みを把握するだけでなく、「なぜそうなるか、そうする必要があるか」の理屈を把握するのがもっとも大事です。
ただし、大抵のユーザーは運転免許を持ち、簡単な保守点検の知識がある程度で、チューニングに必要な知識まで持っている人はそう多くはないでしょう。
その知識を持っているのがアフターパーツメーカーであり、チューニングに使うならパーツメーカーが「その車種に適合する」という製品を使うのがもっとも近道、最短距離です。
あいにく適合するパーツがあまりない車種…あるいは、必要性に応じてより高度なチューニングを行う場合は、知識のみならず経験も豊富なプロの手に委ねるのも恥ではありません。
クルマいじりも楽しみたいユーザーにとっては、どこまでを楽しみとして自分でチューンし、どこからはプロの手を借りるかの見極めも大事ですね。