1970年代後半、三菱自動車は、その高い技術力で国内はもちろん海外からも、日本の新鋭メーカーとして評価され始めていました。
そして1976年11月、三菱の技術力を結集して開発されたギャランのハードトップタイプ『ラムダ』を発表。
先行発売となっていたセダンタイプ、ギャラン『シグマ』のシャシーを踏襲したハードトップスタイルボディに、角型ヘッドライト4灯装備という独特なルックスで登場したギャランΛ。
『ラムダ』とは、いったいどんなクルマだったのでしょう。
『サイレント・シャフト』が生み出す無振動エンジン
三菱ギャランGTOに代わるセダン、シグマサルーンベースのハードトップスタイルとして、1976年12月に登場した初代ギャラン ラムダは、4気筒エンジン搭載モデルとしては異例のドライバースペースの静粛性と、振動の少なさがセールスポイントのモデルでした。
ボディ側のインシュレーション効果を向上させる為に、フロアパネル全面やスカットルに遮音材を敷き詰め、トランク部分やルーフパネルにまで様々な吸音素材を用いたりして静粛性を向上。
さらに、振動対策への秘密は、エンジン内部に隠されています。
それは、ラムダの発売から遡ること約1年半前、1975年2月にギャランGTOシリーズは最後のマイナーチェンジを敢行。
三菱の最新技術を投入した、新型2000ccエンジン搭載モデルを発売しました。
三菱ギャランGTO /出典:https://www.favcars.com/mitsubishi-galant-gto-2000-gs-r-1973-77-pictures-290562.htm
後に、ラムダにも搭載されることになる『アストロン80』と呼ばれるこの2000ccエンジンは、静寂性は勿論のこと、エンジンの振動を減らすための画期的な技術が組み込まれていたのです。
元来、レシプロエンジンの振動にはクランクシャフトの回転方向のものや、ピストン往復による上下方向、そして燃焼圧力の衝撃など、さまざまな振動が混在しあっており、それらを緩和するためには大きな震動源と正反対の振動体を付け加える事が重要でした。
そんな、1904年にイギリス人のフレデリック・ランチェスターによって解明されていた、上記理論に基づいて発明されたエンジンバランサー技術を、三菱自動車が独自に発展し、『サイレント シャフト』の開発に成功。
4気筒のアストロン80エンジンにも、その技術が注ぎ込まれました。
アストロン80の新形状シリンダーブロックには、クランクシャフト駆動で回転する2本の『サイレント シャフト』が、1本はクランクシャフトと同じ高さに、もう1本はエンジンブロックの肩の部分に組み込まれていて、エンジン回転の2倍の速度でまわるこのシャフトは、お互いに逆方向に回転することにより、回転方向と上下方向の振動を見事なまでに打ち消したのです。
三菱自動車の当時の公表値によれば、『サイレントシャフト』が組み込まれているエンジンが発生する機械的振動値は、従来の同系列エンジンの僅か10%に過ぎないとの事でした。
また、GTO搭載時から、『サイレントシャフト』技術を他の4気筒エンジン搭載主力車種にも適用していく方針を発表。
初代ギャラン『ラムダ』は無振動エンジンを搭載し、ワールドプレミアを果たしました。
ギャラン・ラムダ2600スーパーツーリング登場
乗用車用のガソリン仕様4気筒エンジンとしては当時、世界最大の排気量を誇っていたG54B 2600ccエンジンユニットを搭載した、ギャランラムダのホットモデルが、1979年5月21日に登場しています。
三菱デボネアに搭載されていたエンジンをラムダの車体に搭載したパッケージは、同社の対米輸出モデル、ダッジ チャレンジャー、プリマス サッポロとして販売されているものと基本的に同じ構成で、当時、国内販売で好調な売れ行きをみせていたセリカXXやフェアレディZ280シリーズなど、ライバルメーカーの3ナンバースポーツカーをターゲットに販売が開始されました。
そんなG54Bは、『サイレントシャフト』付きSOHC2555ccで、120ps/5000rpm、21,3kg/3000rpmというスペック。
このエンジンの特色は、1000~3000rpmの実用域ではノイズ・振動とも少なく、トヨタ・日産の6気筒エンジンに遜色ないレベルにまで達していて、見事なまでにサイレントシャフトの効果が表われていました。
しかし、3500rpm以上の高回転の排気音は、4気筒エンジンの為に濁り気味となってしまうのが残念なところです。
さらに、従来搭載していた2リットルエンジンと比べると、アイドリングやブリッピング時におけるエンジン回転の重たさは顕著で、シフトレバーなどへの微振動もキャパシティの大きい排気量が故のウィークポイントとして表われていました。
電子制御燃料噴射システムを導入してモデルチェンジ
1980年4月24日、三菱はギャランΛ『ラムダ』シリーズのモデルチェンジを行ないました。
ボディの全長が延長された以外、ほぼ旧型を踏襲したボディスタイルで登場した2代目ラムダですが、メカニズムには驚くような進化が施されていました。
なかでも最大の進化は、新型2リットルエンジン『シリウス』と2.6リットル『アストロン80』に、同社初となる燃料噴射システムを導入した事。
エレクトロニック コントロール インジェクションと呼ばれるこのシステムは、キャブレターメーカーの三国工業と共同開発された、全く新しい独自なものです。
このシステムを簡単に説明すると、吸入ダクト内のカルマン渦を超音波で数え、その数値を電気パルスに置き換えて空気量として検出する事により、スロットルバルブ前に置かれた2つのインジェクターをコントロールするという画期的なものでした。
インジェクターの燃料噴射もスパイラル状に行なうことにより、燃料の霧化を効果的に実現。
更にはキャブレターでいうところの加速ポンプに相当するスロットル開度に応じた燃料増加システムも備えているという、世界でも初めての制御方式を採用しています。
また、足まわりは2リットル高級車種と2.6リットルモデルの上位車種に、FR車では同社初となる後輪独立懸架を採用。
コの字型に造形されたロアアームが特徴の新型ストラット式サスペンションは、リヤのキャンバー変化が少なくなるように全く新しく設計されたもので、三菱の開発陣のおもてなしとも言える技術力により、後輪駆動で懸念されるファイナルギヤ付近の騒音をボディに伝えにくい構造に仕上がっています。
2代目ギャラン・ラムダ2600ロイヤル・スペック
エンジン形式 | 水冷直列4気筒SOHC |
ボア×ストローク | 91.1 ×98mm |
総排気量 | 2555cc |
燃料噴射装置 | ECI |
最大出力 | 135㏋/5500rpm |
最大トルク | 21.5kgm/3000rpm |
サスペンション形式・前 | マクファーソン・ストラット/コイル |
サスペンション形式・後 | ストラット/コイル |
ブレーキ前後 | ディスク |
ホイールベース | 2530mm |
全長 | 4570mm |
全高 | 1355mm |
全幅 | 1675mm |
車両重量 | 1260kg |
まとめ
1980年前後の日本国内は、排ガス規制や省エネルギー問題など自動車開発にとって負のイメージを感じさせる要素が多い時代背景に覆われていました。
そんな中、技術開発に豊富な資金を投じる方針を打ち出していた、当時の三菱自動車は、『サイレントシャフト』や『エレクトロニック コントロール インジェクション』を開発し、主力車種のギャラン・シグマとラムダに搭載。
なかでもエレクトロニック コントロール インジェクションは、燃費の向上を目的に三菱自工のみならず三菱電機、三国工業との共同で開発されたもの。
三国工業のアナログというべきキャブレターの構造を、エレクトロニック コントロールするため空気流量、水温、O2センサーを駆使して、燃料の増減やEGR量などを調整し、排気ガス量、パワー、燃費をコンピューターで管理するという素晴らしい技術です。
近年ドラマで放送されて感動的だった、大手重工業会社と技術力の在る企業が共同でロケット開発を手掛けるサクセスストーリー。
そんなストーリーに負けないくらい、あの時代の自動車開発分野における技術力の結晶が数多く、ギャラン・ラムダには搭載されていたのです。