ウェッジシェイプ(wedge shape)は、空力特性を考慮したクサビ型デザインの車でよく使われる言葉です。
最近は空力設計の変化や衝突時の歩行者の安全性、車内スペースとの兼ね合いも考慮した結果、ウェッジシェイプは意識しつつもズングリとした車が増えました。
そこで今回は、昔懐かしの「とにかく低く、突き刺すように!」を極めようとした車を、まだカクカクした車が多かった時代の国産車の中からいくつかご紹介します。
セリカXXよりカクカクさでは勝る3代目トヨタ セリカ
トヨタでメリハリがある上に、突き刺すようなウェッジシェイプの車は案外数少ないもので、大抵はフロントマスクに重厚感を持たせてみたり、ウェッジシェイプでも角を落として柔らかい印象を持たせています。
そんな中でも明確にクサビ型をしているのは、1981年7月に発売されたFR時代最後の3代目A60系セリカです。
前期型は国産車唯一の、寝かせたヘッドライトがひょっこり起きてくるライズアップヘッドライトを採用したクセのある顔で、1983年8月のマイナーチェンジで一般的なリトラクタブルライトに変更されたものの、個性的でインパクトがあるのはやはり前期型。
同時期に販売されていた2代目A60系セリカXXも同様のコンセプトを採用した拡大版でしたが、モータースポーツで活躍した実績があるのはグループBホモロゲーションモデルのGT-TSも存在した3代目セリカの方です。
特に2ドアクーペは吊り上がったテールランプも相まって、直線的なイメージが際立っていました。
『フェラーリより低いボンネット』が売りの3代目ホンダ プレリュード
「フロントエンジンでどこまでボンネットを低くできるか?!」という難題に果敢に挑戦したのがホンダプレリュードでした。
2代目モデルではエアクリーナーボックスなどの配置を工夫して思い切り低くしたフロントノーズにリトラクタブルを採用し、FFながらスタイリッシュなスペシャリティクーペを実現します。
1987年3月にデビューした3代目は『フェラーリより低いボンネット』と話題になりました。
既にエンジン以外は2代目で工夫しきっていたので、残るはエンジンそのものの高さを抑える……といってもそのための新型エンジンを開発するわけにもいかないので、ド直球で傾斜搭載することでボンネットも重心も下がるという仕掛け。
確かにまるでミッドシップスポーツと言わんばかりの低さでしたが、残念ながらデートカーNo.1の座は5代目日産 シルビア(1988年発売)に奪われ、2代続けての大ヒットとはなりませんでした。
映画『キャノンボール2』での激走もカッコ良かった三菱 スタリオン
カクッとしたメリハリある面構成が特徴で、"ガンダムルック"と形容されることもある三菱のクルマたち。
その中で、最も代表的と言えるのが1982年5月に発売された3ドアFRスポーツハッチバッククーペのスタリオンです。
1988年より標準となった輸出仕様のブリスターフェンダーつきワイドボディ車が大迫力で、映画『キャノンボール2』でジャッキー・チェンの愛車として活躍したほか、国内グループAレースでもボルボ240ターボなど海外勢に負けない活躍を見せてスポーツイメージもバッチリ。
現在でも、ファンの多い1台です。
デビュー時のインパクトが強烈だった日産 パルサーEXA
日産にもウェッジシェイプデザインを採用した上で、カクカクした車が1980年代には多かったのですが、中でもインパクトが強烈だったという意味で紹介したいのが、1982年4月に発売されたパルサーEXA(エクサ)です。
同時発売された2代目N12系パルサーもずいぶんカクカクした車でしたが、その2ドアクーペ版はリトラクタブルヘッドライト採用で、突き刺すようなフロントデザインによって、コンパクトカーゆえの短いボディながらまさにダガー(短剣)のごとし!
当時の同クラスライバル車と比べ抜群にわかりやすいデザインで、これでFRだったら最高だなと思っていたら、漫画『よろしくメカドック』では案の定FRに改造されて登場しました。
また、1985年には日産チェリー店創立15周年記念の特別モデル(100台限定)、パルサーEXAコンバーチブルも発売されています。
スバル アルシオーネ
1980年代にカクカクのウェッジシェイプデザインを極めた懐かしの国産車で、3代目プレリュードと双璧を為すのが、1985年6月に発売されたスバル アルシオーネです。
今も昔も北米市場への依存度が高いスバルが、イメージリーダーとなるフラッグシップモデルを求めて開発されたスペシャリティクーペで、レオーネのエンジンやコンポーネントを使って安価に抑えつつ、高性能を求めた空力設計のために極端なウェッジシェイプが施されました。
カタログスペック上のCd値(空気抵抗係数)を当時最小クラスの0.29へ抑えるべく、標準装備のタイヤを細くするなど苦心していましたが、電子制御AWDの採用など後のスバル高性能AWDの萌芽を見せた車でもあります。
ただし、デビュー直後のプラザ合意で極端な円高ドル安が進行。
安くて高性能なクーペで売るつもりが実際にはどんどん高価になってしまったため、水平対向6気筒エンジンを急遽搭載して高級クーペ路線へ転換し、2代目にあたるアルシオーネSVXへ繋げました。
まとめ
しかし1980年代末期以降からは、角を落とした丸みあるデザインからヌメヌメと流れるようなデザインに流行が移行していったので、これらカクカクのウェッジシェイプデザインは1980年代特有の懐かしさを感じます。
形状による空力を極め切った結果、フォーミュラマシンのごとく細かい要素で効率化を図る現在の車では復活しにくいデザインではありますが、見た目で『どうだ速そうだろう!』という強烈な自己主張の方が、むしろ今の車好きの心を揺さぶるかもしれません。