現在から遡ること40年前の1979年、ニッサンのスペシャリティーカー・シルビアが2度目のフルモデルチェンジを果たしました。
3代目シルビアでは、旧型の丸みを帯びたデザインから一転し、直線的なウェッジシェイプデザインのスペシャリティーカーとして登場。
ボディサイズも室内空間を広げて居住性を確保するために、2代目と比べてひとまわり大型化。
当時としては贅沢な室内装備がほどこされ、スペシャリティーカーとしての確固たる地位を目指して開発が行なわれました。
今回は、そんな3代目『シルビア』と合わせて登場した兄弟車『ガゼール』も紹介します。
北米市場を睨んで大きくなったクーペ・ボディ
当時の4代目フォード・マスタングと見間違う様なサイドビューを持つ、クーペスタイルで登場した3代目シルビア。
29度という傾斜角度を持ったフロントウィンドウと、対照的にそそり立つリアウィンドウ、また前後に大きくとられたオーバーハングが特徴的なスタイリングの3代目シルビアは、まさにマスタングのお膝元、北米市場を見据えて作られた1台でした。
そんな本格的スペシャリティーカーを目指し、開発された3代目シルビアを詳しく紹介する前に、シルビアの先代モデルについて、少し触れておきましょう。
まるで磨かれたダイヤモンドのようなシルエットから『クリスプカット』と呼ばれた美麗なデザインで有名な初代シルビアが登場したのは、1965年4月の出来事でした。
しかし、販売価格の高さや車格にそぐわないプレミアムな設定から販売に苦戦し、3年間で僅か550台を世に送り出してだけでニッサンは生産を終了。
一時シルビアは、カタログから姿を消してしまいます。
その後、約7年間の空白期間をおき、1975年10月に登場したのが丸みを帯びたデザインが特徴の2代目シルビアでした。
2代目シルビア/出典:https://www.favcars.com/images-nissan-silvia-s10-1975-79-209983-1024x768.htm
しかし、満を持して登場した新型モデルでしたが、機能性等を含めてアピールポイントが無く、小型車ながら中途半端に大袈裟なスタイリングが仇となり、発売後3年を過ぎた頃には月間販売台数が300台前後という深刻な販売不振に陥ってしまいます。
そんな2代目シルビアの不振を深く反省した日産開発チームは、スペシャリティーカーの定義を『セダンから派生した車ではないこと』と定め、以下の基本方針に沿って3代目シルビアの開発に挑みました。
・3代目シルビア・開発基本要件1.美しいスタイリングを最優先する。
2.性能、機能面の優位性を確保する。
3.内装、装備面の高級化を図る。
こうして開発された3代目シルビアは、1979年3月13日に約3年半ぶりのフルモデルチェンジが行われ、サニー系列店から発売されました。
そして『フロントエンドには力強さを、リアエンドにはエレガンスさを与えた』というデザインは、当時の日産車らしい直線基調の造形を成していて、兄弟車として日産モーター系列から発売されたガゼールと、グリルやリアガーニッシュデザイン、ステアリングホイールのホーンパッド等の細かな違いのみという、ほぼ同形状のクーペスタイルでした。
日産モーター系列から発売された兄弟車ガゼール/ 出典:https://www.favcars.com/nissan-gazelle-rs-s110-1982-83-wallpapers-113035-1024x768.htm
また、2ドアハードトップクーペのボディサイズは、全長4400mm×全幅1680mm×全高1310mmとひとまわり大きく、トヨタ車でいうとセリカあたりと同じ大きさとなり、北米市場を見据えて拡張された室内空間は、日産の上位車種であるローレル並の室内幅を実現。
美しいスタイリングを兼ね備えたシルビアとガゼールは、ライバルにとって強力な存在としてデビューを果たしたのです。
エンジンは、昭和53年の排出ガス規制を見据えたツインプラグ方式のSOHC4気筒エンジンを搭載。
キャブレター仕様の1800ccZ18型、インジェクション方式の1800ccZ18E型、同じく2000ccのZ20E型の3種類が用意されました。
さらに、のちのマイナーチェンジにより、1800ccターボエンジンのZ18E(T)型を搭載するモデルも登場し、3代目シルビアはよりスポーツ志向に変化を遂げていく事になります。
6ウェイシートにドライブコンピューター装備
では、3代目シルビアの開発基本要件のひとつであった『内装、装備面の高級化を図る』は、どのように実装されたのでしょうか。
ガゼールの最高級グレード、XE-Ⅱに備わるアクセサリーを紹介します。
まず目に飛び込んでくるのは本革製ステアリングホイール、4スピーカー式AM/FMマルチステレオカセットデッキ、リモコンミラー等かもしれません。
しかし特筆すべきはシフトレバー前に装備された『ドライブコンピューター』で、この装置は小型の計算機に車速計、時計等を備えたもので、一種のラリーナビゲーターの様なもの。
メーターパネル左端にディスプレイが存配置され、男のコクピット願望を満たす装備として当時としては画期的なオプションとなっていました。
また、新たに考案されたのが『6ウェイシート』というフロントシート。
このシートはヘッドレストの調整、リクライニング調整、前後移動、バックレストにランバーサポートを装備し、ダイヤル調整で背中を左右からホールドするように包み込んでくれるという、なかなかの優れもの。
このほかにも、電動アンテナや熱線リアウィンドウ、さらには夜間ドライブをロマンチックに演出してくれる減光式ルームランプや室内の足下を照らす減光残光式フットウェルランプ、左右ドアにもステップランプ等が装備されていて、当時としては画期的な装備で満たされていました。
そして、3月に発売された新型シルビア/ガゼールは、販売体制が整った4月には登録台数5800台、5月から6月にかけては6500台超を記録して、7月には遂に7500台に達するなど好調な滑り出しを見せ、スペシャリティーカーとしての地位を確立していったのです。
ハッチバックボディをシリーズに追加
予想を遙かに上回る好調な売れ行きを見せた3代目シルビア/ガゼールシリーズのクーペモデル発表から僅か5ヶ月後の1979年8月21日に、『ハッチバックモデル』が追加されました。
そしてクーペモデルのセンターピラー付近からテールエンドまで傾斜的なデザインが施され、開口部の大きなテールゲートを配置した3ドアハッチバック車として、新たにラインナップに追加されたのです。
ニューデザインの大型バンパーのおかげで、全長は35mm延長され、車両重量もプラス35kg。
クーペモデルより約8万円高い価格で登場した同モデルは、ハッチバックのウィンドウ部分に設置された『シングルアームワイパー』が、ロングアーム形状のシングルワイパーとしてはシトロエン、VWシロッコに次いで国産車としては初の装備となり、かなり話題を呼びました。
ちなみに、リアシートは左右分割式で片側ずつ倒すことも可能でしたが、ヘッドクリアランスの狭さからクーペモデルより居住性は乏しい形状となっています。
また、このハッチバックの誕生を機に、オプション装備に2ウェイ式サンルーフも加わるなど、3代目シルビア/ガゼールは若年層を意識したモデルでもありました。
ホットモデル・シルビアRS登場
3代目シルビア/ガゼールシリーズにも、ホットモデルが存在します。
R30型スカイラインにも搭載されていた4バルブDOHC2000ccの名機FJ20Eエンジンを搭載する『RS』が、マイナーチェンジでラインナップされたのです。
この『RS』は当時、富士スピードウェイや筑波サーキットで開催されていたスーパーシルエットに参戦する大改造クラスのグループ5仕様のレーシングシルビアをイメージした市販モデルでした。
FJ20搭載モデルRS 出典:https://www.favcars.com/photos-nissan-gazelle-coupe-s110-1979-83-116666-1024x768.htm
しかし、水冷式直列4気筒 DOHC1990ccから150psの出力と、18.5kgmの最大トルクを発生し、R30系スカイラインで定評があるFJエンジンでしたが、シルビア/ガゼールとの相性はあまり良くなく、ノーマル車ベースでのモータースポーツシーンでは、全日本ラリー選手権に出場して活躍する程度。
1982年全日本ラリー最終戦 鳥海ブルーラインラリーでは、松本誠選手が駆るシルビアRSがBクラスで見事3位入賞を果たしています。
スペック
フロント マクファーソンストラット/リア4リンクで、前後スタビライザーを装着した3代目シルビアの足回りには、特筆すべきところは特にありません。
しかし、コーナーリングでのロールは適度に抑えられていて、弱アンダーステア傾向ではありますが、低速の小さなコーナーではアクセルコントロールで容易に後輪を流すことも可能という使い易さは、当時のジャーナリストから定評がありました。
シルビア・ハッチバック/ターボZSEスペック
エンジン形式 | 水冷直列4気筒Z18E/Tターボ |
ボア×ストローク | 85×78mm |
総排気量 | 1770cc |
最高出力 | 135ps/6000rpm |
最大トルク | 20.0mkg/3600rpm |
サスペンション形式・前 | マクファーソンストラット・コイル |
サスペンション形式・後 | 4リンク・コイル |
ブレーキ前後 | ディスク・サーボ |
全長 | 4475mm |
全幅 | 1680mm |
全高 | 1310mm |
ホイールベース | 2400mm |
まとめ
『この海に、陽が沈むとき若者は、波を見て歌をつくってきた。湘南シーサイド、PM5:55』白い稲妻シルビア。
当時の雑誌広告には、若者をターゲットにデートカーをイメージ付けるロマンチックなフレーズが並んでいました。
排ガス規制の影響で、あまり元気の無いエンジンを搭載したグレードでも、ドライブデートをロマンチックにしてくれる照明や豪華な室内装備、アメリカ車をイメージしたボディは、少し悪く言えば格好良さのみを追求する若年層にマッチし、販売台数を大きく伸ばすことに成功。
そんな、当時の広告はこう締めくくられています。
『白い波が目に映える。青春の海には、青春のシルビアが似合う。流れるようなスタイリングがよく似合う』
このように、スタイリッシュなハッチバックの登場で、国内市場でも好調な売れ行きをみせた3代目シルビア/ガゼールシリーズでしたが、1981年にライバル トヨタ自動車が発売したスペシャリティーカー、初代『ソアラ』に人気を徐々に奪われていく事になります。
しかし、現在になって振り返ってみるとデートカーたる国産スペシャリティーカーの地位を最初に築いたのは、間違いなく3代目シルビア/ガゼールだったといえるのではないでしょうか。