今でこそ当たり前になったマニュアルモード付ATですが、日本で初めて市販車に搭載されたのは、三菱 FTOでした。
'90年代初頭、経営的に大成功していた三菱自動車が、GTOに次ぐスポーツモデルとして満を持して発売したFFスポーツクーペを再考します。
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三菱 FTO誕生の背景
時代と洋の東西を問わず、クーペやスポーツモデルは特殊で趣味的な車であるがゆえに、多くの生産台数を見込めません。
それでも生産するのなら、他乗用車と多くのパーツを共有したり、他ブランドのスポーツカーとしてOEM共有したりと、生産台数を増やしてコストをダウンさせるための工夫をしなければなりません。
しかし、こんな工夫が無縁の場合もあります。
それは、自動車メーカーが儲かって儲かって仕方がないとき。
1990年初頭の三菱自動車は、実は儲かって儲かって仕方がないメーカーでした。
RVブームにのってパジェロがカローラより売れる異常事態となり、1990年の自動車税改革で新設された2.5リッタークラスにディアマンテを登場させ、マークIIを超える大ヒット。
さらにはランエボの歴史も、この時代から始まりました。
このような恵まれた状況の中、経営的には手を出しずらいスポーツモデルが2台復活します。
1台目はGTOで、1977年に生産を終了したギャランGTO以来、13年ぶりのネーミングです。
そして2台目が、FTO。ギャランGTOの弟分で、1975年に生産を終了したギャランクーペFTO以来、19年ぶりの復活です。
三菱自動車にとって2代目となるGTO/FTOは、初代と同じく兄弟分ともいえる関係で、プロジェクターヘッドライトやインパネの3連メーターに、三菱スポーツモデルとしての類似性が見られました。
三菱 FTOが名車たる理由
三菱 FTOは、ミラージュのコンポーネントを使用したFFクーペです。
しかしエンジンは独自に、ベースグレードのGSには1.8リッター直4SOHC、中間グレードのGRには2.0リッターV6DOHC、そして最上級グレードのGP系には可変バルタイのMIVECを組み合わせた2.0リッターV6を搭載。
直4と比較して重いV6エンジンを搭載するため足回りのセッティングは硬く、路面からのショックはダイレクトに室内に伝わりましたが、ボディ剛性が高いためサスペンションはきちんと機能しています。
前後トレッドはギャランクーペFTOと同じくワイドで、走りに安定感をもたらしつつも機敏なハンドリングを実現。
三菱 FTOが名車と呼ばれる所以は、日本で初めてポルシェのティプトロニックと同様のマニュアルモード付ATを搭載したことでした。
三菱自動車ではマニュアルモードをスポーツモードと呼び、ATはINVECS-IIと命名。
DポジションでATシフトを左に移動させると、前後式マニュアルモードになります。
そして、ATシフトを前に移動させると一段アップ、後ろに移動させると一段ダウンとMT車より簡便な操作で、マニュアルライクな運転を楽しめました。
そんな三菱こだわりのFTOは、1994-95年カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、発売から2年間で2万台を販売するほどの人気となります。
三菱 FTO主要スペック
三菱 FTO GP X 1994年式
全長×全幅×全高(mm):4,320×1,735×1,300
ホイールベース(mm):2,500
車両重量(kg):1190
エンジン仕様・型式:6A12 可変バルブタイミング機構MIVEC付V型6気筒DOHC
総排気量(cc):1,998
最高出力:200ps/7,500rpm
最大トルク:20.4kgm/6,000rpm
トランスミッション:5MT/スポーツモード付4AT(INVECS-II)
駆動方式:FF
まとめ
プレリュードはAT専用車でしたが、他車はMTが人気でATは少数派。
そんな中でINVECS-IIを引っ提げて投入されたFTOは、日本のATにマニュアルモードとうい新しい付加価値を提案し、マニュアルモード付がATの多数を占めています。
FTOの生産台数は3万台で、モデルライフ中期から販売の勢いは失速しましたが、日本にマニュアルモード付ATを根付かせた功績は偉大と言えるでしょう。