普段はスポーツタイヤと街乗りタイヤを頻繁に交換するような用途がなくとも、スタッドレスタイヤへ履き替えようというユーザーは数多くいることでしょう。
そんなタイミングで、「走行中に突然外れたタイヤが歩行者を直撃する」という痛ましい事故が世間を騒がせ、いかにも不法改造が原因のような誤解を撒き散らしましたが、根本的には「タイヤを正しく装着できていなかった」のが事故原因なのは明らかです。
ホイールナットの締め付け規定トルクは?どんなナットを使い、どんな交換方法をするべきか?皆さんはタイヤ交換に関する正しい知識を持っていますか?
「よくわからないけどタイヤ交換してみよう」の不思議
先日、筆者が見ていたSNSへこんな書き込みがありました。
「もうすぐ雪降るっていうから冬タイヤへ交換しようと思うけど、お店は予約がいっぱいでいつできるかわからないし、よくわからないけど自分で交換しようと思います。」
それを見て不思議に思ったのですが…現在の自動車教習所では、タイヤ交換の実技をしないのでしょうか?
1974年(昭和49年)生まれ、1993年(平成5年)に運転免許を取得した筆者の場合、パンクしたら自分でタイヤ交換するのが当然とばかり、クルマに積んであるスペアタイヤと車載工具一式(と言ってもパンタジャッキとレンチくらいですが)で交換実習をやりました。
その経験からすると、「タイヤ交換のやり方がわからない」というのは妙な話だと思いましたが、平成も半ばを過ぎれば、パンクしてもタイヤ交換できる場所まで走れる「ランフラットタイヤ」や、パンク修理キットのみでスペアタイヤも工具もないクルマが増えています。
緊急時に自らタイヤ交換する必要がない、そもそもできないクルマが増えている以上、お店任せで十分だからタイヤ交換を知らなくてもいい…これも時代の流れでしょうか。
とはいえ、毎年のようにタイヤ交換時期には予約で数時間待たされるのが珍しくないですし、それでも冬タイヤへ交換する必要があれば、自分でやろうという人もいるのでしょう。
そう思えば、タイヤ交換の方法くらい理解していても、損はありません。
そもそもタイヤとは、何がどのように装着されているのか?
「タイヤ交換のやり方」を学ぶ大前提として、まずタイヤとはどうやって車体に装着されているのか…を解説します。
まずタイヤとはほとんどの場合、ゴム製のタイヤがホイールに組まれた状態をイメージすると思います。
ホイールとタイヤも脱着できるものですが、これはより専門的なことになって、よほどDIYに凝っている、慣れている人以外は縁がないので、ここでは割愛。
ホイールと、クルマの側の「ハブ」と呼ばれる部品(大抵はブレーキや足回り…サスペンション関係のパーツが組み込まれています)を結合することが、「タイヤを装着する」だと思ってください。
結合に要する部品は一般的に2パターンあります。
- 「ホイールナット」:国産車のほとんどに用いられ、ハブから伸びる「ハブナット」をホイールの穴に通し、ホイールナットで締め付けることにより、タイヤ/ホイールを結合。
- 「ホイールボルト」:かつては輸入車で、現在は国産でも高性能車や重量級のクルマに用いられることが多く、ハブのボルト穴にホイールの穴を通したホイールボルトを締め付け、タイヤ/ホイールを結合。
簡単に言えば、「ホイールナットかホイールボルトを正しく締め付けることで、交換したタイヤが外れないようにしている」わけで、単純なようでも締め付け確認ミスで走行中でも容易にナット/ボルトは外れ、事故につながるとても重要な作業です。
危険がいっぱい!確認も大事!タイヤ交換の手順
次に、自分でタイヤ交換をする時の手順ですが、今回は一例としてホイールナット式で。
1.ジャッキアップして、車体の落下防止措置をとる
ジャッキアップのポイントは車の説明書に掲載されているはずですが、わからなければメーカーやディーラーに問い合わせてください。
なお、ジャッキで持ち上げられただけの車体は非常に不安定な状態にあり、ちょっとしたショックでジャッキが倒れたり、ジャッキの故障で車体が落下することは多々あり注意!
その際に車体と地面の間に体が挟まれて死亡、手や足を挟まれて大怪我という事故も多いのですが、「ウマ」と呼ばれるスタンドや、それがない場合は使わないタイヤ/ホイールや、コンクリートブロックなどを車体と地面の間へ置くだけでも、落下防止になります。
どうですか?ここだけを読んでも「タイヤ交換はお店か詳しい人に任せよう」と思う人は多いでしょうし、それもひとつの正解です。
2.元のタイヤ/ホイールを外す
レンチにはナットの種類に応じてソケットを付け替えるタイプ、単なるL字レンチ、複数のナットに対応した十字レンチなどがありますが、どれを使っても構いません。
前に脱着してから時間が経っている場合はナットが固着気味ですし、ブレーキがかかっていないタイヤは空転してしまいますから、ジャッキアップの前か、ジャッキアップ中にまだタイヤが接地している段階で、軽くゆるめておいてもいいでしょう。
固着に対してレンチを回す腕力が足りない場合、鉄パイプなどをレンチの持ち手に通して延長し、テコの原理で力をかけやすくするのも有効です。
ナットを外す順番は、最初はどれでもよいので次に対角線上(5穴ホイールの場合は対角線のどちらか)、次にもう一方とその対角線上となります。
ホイールナット式の場合は全部のナットを外してもホイールはハブボルトに支えられていますが、ホイールボルト式の場合は全部のボルトを外した瞬間に支えのなくなったタイヤがいきなり落ちますから、注意してください。
なお、どちらの方式でもホイールがハブに固着していて、引っ張っても外れない場合がありますが、その場合はタイヤを思いっきり蹴っ飛ばすなど衝撃を与えるのが有効です。
3.交換するタイヤのホイール穴にハブボルトを通す
それを確認した上でハブボルトにホイールをハメたら、外した時と同様、対角線上にホイールナットを締めていきます。
4.ナットや工具の種類に気をつけつつホイールナットを締め付ける
この時に電動工具で締め付ける人もいますが、トルク(力)が強烈すぎてボルトやナットのネジ山を痛めますから、電動で締めるのはホイールとハブがくっつくところまで、最後の締め付けは確認を兼ねて人力で行うべきでしょう。
別に急ぐ作業でもありませんし、電動工具で多少時間を短縮するより、「タイヤ交換の経験」を積むため、経験がない人ほど人力での作業がオススメ。
なお、交換するタイヤ/ホイールによって、「ホイールとナットの接触面角度(テーパー角」が合わず別なナットを使う必要や、「ホイール穴周囲の空間が少ないため、アルミホイール対応で頭の厚みが薄いレンチ(またはソケット)」を使う必要も出てきます。
テーパー角が合わなかったり、メーカーごとに違うネジ山のピッチ(間隔)が違うナットを使えば締め付けはできないだけでなくボルトやナットの破損につながりますし、適切な工具を使わなければホイールを破損させるからです。
5.正しく締め付けている事が確認できたら、「本締め」
その場合、後述するように「トルクレンチ」と呼ばれる工具があると便利ですが、なくても本締めはできます。
ホイールボルト式でも、ボルトをハブのボルト穴へまっすぐ通すためタイヤ/ホイールを持ち上げて位置を維持すること以外、手順は同じです。
6.ジャッキを下ろし、最後に締め付け確認…この最後が一番重要!
その後、レンチで最後に締め付け確認をするのが重要で、うっかり「本締め」を忘れたままで確認もしないと、走行中にナットが緩んで外れていき、カーブを曲がった時などにタイヤがブレる違和感にも気づかないと全ナットが外れタイヤ脱落、事故発生となります。
ある意味、この「最後の本締め確認」さえ怠らなければ、そうそうトラブルにはなりませんから、単純でもすごく重要な作業だと思ってください。
タイヤ脱着後に周囲をひとっ走りしてから、さらにゆるみがないか確認すればベストです。
もっとも重要なのは締め付けトルク
タイヤ交換で注意しなければいけないのは、おおむね以下。
- ジャッキアップ時の安全対策
- ホイールに対して適切なナット(ボルト)や工具を使っているか
- 締め付けトルクは十分で、最後に確認したか
このうち「タイヤの交換方法」に関わる部分でもっとも重要なのは、「締め付けトルク」でしょう(中には、貫通ナットの裏表を逆にして締め付けているような例もありますが…そこまでいくと問題外です)。
クルマを組み立てる際に使う全てのナットやボルト同様、ホイールナット(ホイールボルト)にも「規定の締め付けトルク」があり、車の説明書に記載されていなければ、メーカーやディーラーへ問い合わせればわかります。
この「規定の締め付けトルク」で締め付けるのに必要なのは、「トルクレンチ」という工具で、締め付けトルクをゲージで読み取るものもありますが、設定トルクに達すると「カチカチ音」などで知らせるタイプがわかりやすいかもしれません。
ただ、年に2回くらいしか使わないし、その間にどこへしまったか忘れるかも…と思えば、トルクレンチは本格的すぎる、と思う人も多いでしょう。
しかし車という工業製品と向き合う以上、正しい工具で正しい取り付け、トルク管理、というのは非常に重要になります。
タイヤ交換をする際は必ず用意をするようにしましょう。