兵庫県姫路市のオフロードサービスタニグチはこの道35年以上の老舗として、ジムニーオーナーを中心に人気のショップです。
タニグチを少し知る人なら意外に思うかもしれませんが、実は同社は2005年の東京オートサロンのコンセプトカー部門で優秀賞を受賞した経験があるのです。
その車両は極寒の地を踏破するために作られたEVジムニーで、目指すは南極の地!
日本人の冒険チームの手によって計画されている、広大な南極大陸に日本が誇る小さな軽自動車で挑もうという壮大なチャレンジについてお届けします。
Contents
ジムニーで南極点を目指す!?世界初の冒険に日本人が挑む!
「ジムニーで南極点を目指す。」
広大な南極大陸に日本が誇る小さな軽自動車で挑もうという壮大なチャレンジが、日本人の冒険チームの手によって計画されていることをご存知だろうか?
今回、モタガレが取材に成功したのは、そんな南極点にアタックするために、樺太とユーラシア大陸(ロシア)との間にある最狭部で約7.3kmになる間宮海峡で氷上走行をテスト。
2005年2月から3月にかけて行われた、間宮海峡テストの為に作られたのが『ARK-1 MAMIYA(以下アーク1)』だ。
北緯51度30分以北の道のないエリアでは鉛バッテリーと発電機を動力にした。 / ©︎モタガレ
ベースはSJ30型のジムニーとのことだが、かろうじてフロントウインドウに面影を感じる程度で、パッと見ただけでは、もはやジムニーであることすら判別が不可能だろう。
しかもアーク1はEV(電気自動車)化されているというのだから更に驚きだ。
そんなアーク1を製作した冒険チーム『ZEVEX(ゼベックス)』の代表 鈴木一史さんに話を伺った。
鈴木さんは極限走破の技術を競うオフロード競技『アイアン・バール・カップ』を立ち上げたり、マレーシア・ボルネオ・タイ・ラオス・ベトナム等のジャングルを4WD車で走破する経験を持ち、これまでに5台のEVジムニーの製作経験もある、EV4WDのパイオニア的人物。
なぜ、このようなマシンを作るに至っただろうか?
鈴木「我々ゼベックスは"4WD・自然エネルギー・電気自動車"をテーマに活動する4WD愛好者団体です。
化石燃料の枯渇や地球温暖化に代表される環境問題から、自動車業界も"電動化"が急務であることは、皆さんご存知の通り。
そして4WD車の魅力は優れた走破性を活かし、「道路」という環境負荷の大きなインフラ整備を必要としない"地球の姿に合わせた"自動車、という点でしょう。
我々の愛する4WDは、自然の中でこそ真価を発揮する車両です。
これからも末長く4WDを楽しむ為には、ゼロエミッション化は避けては通れぬ命題であり、それならばいち早くその課題に取り組もう!というのが我々のテーマなのです。」
化石燃料の枯渇や地球温暖化に代表される環境問題から、自動車業界も"電動化"が急務であることは、皆さんご存知の通り。
そして4WD車の魅力は優れた走破性を活かし、「道路」という環境負荷の大きなインフラ整備を必要としない"地球の姿に合わせた"自動車、という点でしょう。
我々の愛する4WDは、自然の中でこそ真価を発揮する車両です。
これからも末長く4WDを楽しむ為には、ゼロエミッション化は避けては通れぬ命題であり、それならばいち早くその課題に取り組もう!というのが我々のテーマなのです。」
モーター駆動のポテンシャルの高さを証明すべく、南極へのチャレンジを掲げるゼベックス。
アーク1は南極への足がかりとなる間宮海峡アタックの為に生まれた、貴重なEVジムニーなのだ。
風車とソーラーパネルで発電しながら、南極走破を目指す。2005年のオートサロンに出展し、コンセプトカー部門で優秀賞を獲得した。 / ©︎モタガレ
アーク1のカスタム内容
ここからはアーク1のディテールに迫っていきたいと思う。
まずその独創的なスタイリングだが、その形状を説明する為には、先に搭載されたモーターについて説明する必要がある。
モーターは直流直巻の古典的なタイプがチョイスされている。
直流直巻モーターは『ブラシ』と『整流子』を使って、回転子と固定子の電流を機械的に切り替えることで、モーターを回転させている。
近年主流の誘導モーターやPM同期モーターでは、このブラシ&整流子に替わって、電子回路を使って電流を切り替えることで、“ブラシレス“化を実現させている。
太い低速トルクでクロカンに向く直流直巻モーターだが、極低温の環境下では、このブラシの存在がアキレス腱となる。
モーター稼働中は100度を越えて高温となるブラシは、停止中は外気温と同じ温度まで下がる。つまり、マイナス30度を下回る厳冬期の間宮海峡では、ブラシは130度以上の温度差に晒されることとなる。
この温度差でブラシは大きく膨張・収縮を繰り返し、僅かな衝撃でも容易に割れてしまうのだ。
もっとも、現在の様に安定したパワー素子が一般的ではなかった2005年当時には、ブラシモーターを止めて、電子機器に頼ることも賢明とは言えなかった。マイナス30度で張ったテントの中で、電子機器から基盤を取り出して修理することは不可能だからだった。
そこで「ブラシが割れることは計画に織り込む、割れたら交換する」という冒険プランを組み、“現場でモーターを脱着し易い車両デザイン“が必要となった。鼻先まで伸びた特徴的なボンネット形状は、こうして決まったのだった。
足元を支えるのはヨコハマタイヤのスタッドレスタイヤ。
サイズも純正に比べ、ふた回りほど大きいものがチョイスされていた。
ショックアブソーバーはオフロードサービスタニグチ謹製の『ファイナルショック』がインストール。
リーフスプリングは同社の『ファイナルリーフ』で足元を固めている。
いずれも優れた耐久性を備えていることは、ジムニーを愛する鈴木さんも、もちろん熟知の上。
そんなタフさが好まれ、アーク1に採用されたのだとか。
電気自動車ながら、実は3ペダルであることに驚きを隠せない。
トランスミッションはそのまま、SJ30純正の物を使用し、モーターとの間に特注のアダプターを挟み込むことで駆動を4輪に伝えている。
助手席にはリチウムイオンバッテリーが搭載されている。
寒さに弱いリチウムイオンバッテリーだが、保温機能がついた黒い箱で寒さからガード。
リアにはタニグチの『オフロードリアバンパー』を装着。
また、ソリを牽引するための頑丈なフックがボルトオンされている。
南極へはいつ行くの?
2005年に行われた間宮海峡のチャレンジは、ビザの期限や現地サポートチームと彼らと結託したガイドに法外な追加料金を請求されるなど、人的トラブルに巻き込まれ、達成することは叶いませんでした。
しかし、アーク1は非常に安定した走行を見せ、そのまま問題なく走行ができれば海峡横断が出来ただけに悔しい結果となりました。
「氷点下30度近い寒さの中でも排出物を全く出さないモビリティーが成立し得る可能性を体現できた」ことは証明出来たので、南極アタックに向けては大きな前進となりました。
まだ資金面などの課題はまだ残るものの、アーク1での知見を活かした新型EVジムニーが既に完成済で、世界初のゼロエミッションEVジムニー南極点アタックは、既に現地コーディネーターとの具体的な折衝のフェーズに入っています。と鈴木さんは語ってくれました。
フォトギャラリー
アーク1助手席に積んだリチウムイオンバッテリーは、自然放電とヒーターで使った分が減っている。減った分を風車とソーラーパネルで補充電する。 / photo by ZEVEX
ビザの関係で出国しなければならなくなった為、アーク1は現地の小屋のオーナーに一旦預けて、夏に改めて回収した。 / photo by ZEVEX
小屋を借りた村の住人とも、すっかり仲良くなった谷口守史社長。 / photo by ZEVEX
2005年に開催された国際博覧会『愛・地球博』にアーク1を展示する谷口社長 / photo by ZEVEX
まとめ
かつての間宮海峡アタックは先代の谷口社長がドライバーを務めたが、現在タニグチの大黒柱として活躍する武さんも実は大学時代に探検部に所属していたという"探検家"。
今後、南極アタックへの"目処が付いた"と語るゼベックス鈴木さんのサポートを、引き続きタニグチでは行なっていく模様だ。
史上初の電気自動車による南極点到達を目指すゼベックスとオフロードサービスタニグチの挑戦は、引き続きお届けしていきたいと思います!
text : Yusuke MAEDA / photo : Yusuke MAEDA、ZEVEX