日本人初のWRC優勝やPCWRCチャンピオン、最近では昨年度のJRCチャンピオン獲得など華々しい記録、実績を持つ日本を代表するラリースト、新井敏弘選手。
2014年シーズンより続けて参戦している全日本選手権(JRC)JN-1クラスでは、今シーズンも6戦終了時点(2019.7/20現在)で4戦で表彰台、内2回は優勝と強さを見せています。
そんな新井選手が愛機として駆るのがスバルWRX STI。世界を戦ってきた新井選手が持つノウハウをベースに仕立てられたスペシャルマシンですが、市販車ベースで日本のナンバーを取得する必要があるため、見る部分によっては意外と“普通”なことに驚かされることも。
コンディションが安定しない未知のコースを走る競技のため、とにかく安心して踏んでいけるクルマであることが重視されています。
また、新井選手のマシンを文字通り足元からずっと支えてきたのがワークのホイール。
競技者目線から見たその“良さ”についても語っていただきました。
Text:Masamichi OKUTSU / Photo:Takamasa MIYAKOSHI
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世界の新井は左ハンドル!!
新井選手のマシンは同じ仕様の3台(ターマック仕様、グラベル仕様、スペアカー)が用意され、シーズンを戦っています。
撮影した車両は現在、イベントなどでデモ走行などに使われているデモカー。
昨年(2018年)の競技車両そのものなので、リストリクターを装着すれば競技への参戦が可能になります。
ターマック仕様とグラベル仕様はクルマそのものの仕様は大きく変わらないものの、車高やアライメント、ECUのセッティングなどが異なっているため、競技前に変更の必要があること、ボディの傷み方がまるで違うことなどから、車両を分けているのだそうです。
エンジンは補器類も含め、ノーマルを使用。
街中を走る車両と異なっているのは、エアコンがないくらい。リストリクター(写真の車両は未装着)で吸気量が制限されるため、出力は270psほどとノーマル以下に抑えられています。
その反面、トルクは強力で60㎏-mくらい出ているとのこと。
ターマックとグラベルでは求められるパワー特性も違うそうで、ターマックではピークは上め(高回転寄り)が好ましく、グラベルでは中間がいいとのこと。
基本的なエンジン仕様はどちらも同じですが、ECUのセッティングでそれぞれ最適化されています。
ミッションは変更が禁じられているため、シンクロのないドグ式になっていますが、ノーマルのHパターンのまま。
ドライバー側にあるレバーは油圧式のサイドブレーキです。
競技のエントリーリストなどを見ると、新井選手のマシンには“改”の文字が刻まれていることに気付くでしょう。
その理由は左ハンドルだから。
左足ブレーキを使って走るラリーでは右手シフトの方が走りやすいこと、海外ラリーが長く、左ハンドル車の方が慣れている(WRカーは左ハンドル車しかない)という理由から、左ハンドルがチョイスされています。
しかし、EJ20搭載の左ハンドル車は存在しないので、左ハンドル車のボディにEJ20を搭載した車両を独自に製作し、公認を取った上で参戦しているのです。
ダッシュパネルの上はスウェード状の生地が貼られ、窓ガラスへの反射が予防されています。
ちょっとしたこともドライビングに影響しないよう配慮されているのはラリーカーならではでしょう。
最低重量は決まっているので、それ以上の軽量化はできませんが、それでもなるべく軽くしたい。
軽くするためのノウハウはいろいろあるそうですが、ドアパネルもカーボン製に変更されているなど、室内にはカーボン製パーツも多く使われています。
ロールケージはレギュレーションで点数、パイプ径などすべて決まっているので、その通りに装着されていますが、これだけで70㎏ほどになるのだとか。
軽い車体づくりは、この70㎏の増加分を前提に行われています。
ブレーキはエンドレス製を採用。
海外ラリーではどんなキャリパーでもダメになってしまうようなコースがあるそうで、信頼性の高いブレーキシステムは安心して攻めるためにも必須のパーツです。
このエンドレスのモノブロックキャリパーはハードな走りにも開かず、安心して使えるとのこと。
余談ながら、エンドレスの社長曰く、このモノブロックキャリパーは、どんなキャリパーでも開かせてしまう新井選手のブレーキングにも耐えうるものとして開発したのだそうです。
ホイールはワークのM.C.O RACING を装着。
新井選手が参戦するJN1クラスでは新井選手を筆頭に装着され、JN3クラス参戦の86、8台がこのホイールをチョイスしているというラリーフィールドでも人気の高いモデルです。
86ではドライバーごとに違うサイズ(インセットなど)がチョイスされているなど、セッティングパーツとしても機能しているようです。
新井敏弘選手の走りを支え続けてきたワークホイール
新井選手のマシンには、以前よりずっとワークのホイールが装着され、文字通り、その走りを足元から支えてきました。
競技用としてその良さはやはり“強く、軽い”こと。
悪路を走るラリー競技ではホイールの変形や破損によるパンクも起こりますが、パンクやホイールの破損はリタイアにも繋がるので、サーキットレースなどとは違った強度や耐久性が求められます。
かつて、ヨーロッパのラリーに参戦していた時、パンクに悩まされ続けた時期があったそうですが、それをワークに相談すると、すぐに仕様を変更し、対策したホイールを用意してくれたのだとか。
そんな対策の早さも信頼を寄せるところなのです。
現在、マシンに装着されているホイールは鋳造ですが、かつてヨーロッパ時代、鍛造ホイールを持ち込んだことがあったそうです。
同様の鍛造ホイールがないヨーロッパでは、新井選手のマシンだけパンクしない上、圧倒的な軽さがあったことからクレームが付き、すぐに禁止されてしまったとのこと。
IRC時代は特にパンクしやすかったのだとか。
禁止されたホイールはレッキ用車両に装着され、それに乗った他のドライバーたちは驚き、羨望の的になったことがあったそうです。
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