懐かしい車のギミックの1つが、リトラクタブルヘッドライトです。
しかしひと口にリトラクタブルヘッドライトと言っても、そのタイプは様々ありました。
また、現在の新車にリトラクタブルヘッドライトが採用されないのは、何故なのでしょうか?
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リトラクタブルヘッドライトとは?
リトラクタブルヘッドライトとは、可動式で、ボンネット内に格納されるタイプのヘッドライトの呼び名になります。
1960~1970年台のスーパーカーに多く採用され、スポーツカーのアイコンでもありました。
そんなリトラクタブルヘッドライトを採用する目的は、保安上定められたヘッドライトの最低高を確保しつつ、ヘッドライトの存在に縛られない自由度の高いデザインを量産車に活かすこと。
さらに、副次的にリトラクタブルヘッドライトを採用することで、フロントノーズを低く抑えるデザインが可能となりました。
低いフロントノーズは、空気抵抗係数(cd値)を軽減し、燃費や操縦安定性の向上にも、役立ちます。
リトラクタブルヘッドライトの種類
1種類目は、ライトがボンネットに完全に収納される「フルリトラクタブル」。
2種類目は、ライト灯火面がボンネットに露出する「ポップアップ式ヘッドライト」。
3種類目は、ライトが完全にボンネットに収納されない「セミリトラクタブル」です。
フルリトラクタブルヘッドライト採用車
1)マツダ RX-7マツダ SA22C サバンナRX-7 出典:http://mzracing.jp/feature/8594
初代SA型サバンナ RX-7、2代目FC型サバンナ RX-7、3代目FD型アンフィニ RX-7(後にRX-7に改名)はいずれも、フルリトラクタブルヘッドライトが採用されていました。
2)ポルシェ 924
ポルシェ 924/ © 2019 Porsche Japan KK
ポルシェ 924は、ワーゲン ポルシェと呼ばれた914の後継車で、2リッターSOHCエンジンを搭載した、ポルシェブランドのエントリーモデルです。
3)ホンダ プレリュード
3代目ホンダ プレリュード /出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=20556
ホンダ プレリュードは、2代目、3代目モデルにリトラクタブルヘッドライトを採用。
特に3代目モデルは2代目トヨタ ソアラと共に、デートカーの代表的存在でした。
ポップアップ式ヘッドライト搭載車
1)ポルシェ 928デビュー40周年を記念してヒストリックカーレースに参戦したポルシェ928 / 出典:https://www.porsche.com/uk/accessoriesandservice/classic/928-anniversary/
ポルシェ 928は、911よりも高級なラグジュアリースポーツカーとして、1978年から販売されました。
928には当時の最新技術がフル搭載されましたが、ポップアップ式ヘッドライトもそのうちのひとつです。
2)ポルシェ 968
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/
ポルシェ 968はポルシェ 944の後継で、ボクスターの前進モデルです。
エンジンは3リッター直列4気筒を搭載し、最高出力240ps/6,200rpm、最大トルク31.0kgm/4,100rpmを発揮。
1,370kgの軽量ボディに十二分な運動性能を与えています。
3)トヨタ セリカ
3代目トヨタ セリカ /COPYRIGHT© TOYOTA MOTOR CORPORATION.All Rights Reserved.
日本のスペシャルティーカーの元祖であるトヨタ セリカは、3代目モデルの前期型にポップアップ式ヘッドライトを採用しています。
後期型はフルリトラクタブルヘッドライトに変更され、その後FF化された4代目、5代目モデルにも踏襲されました。
セミリトラクタブルヘッドライト搭載車
1)ポンティアック ファイヤーバードPhoto by Michael Spiller
テレビドラマ「ナイトライダー」でおなじみの3代目ポンティアック ファイヤーバードは、セミリトラクタブルヘッドライトを採用していました。
ファイヤーバードといえば決まって「トランザム」が続きますが、こちらは最上級グレードの名称です。
2)日産 フェアレディZ
出典:https://ja.wikipedia.org/
1983年に発売された3代目日産 フェアレディZ(Z31型)は、セミリトラクタブルヘッドライトを採用していました。
フルリトラクタブルヘッドライトを採用した2代目トヨタ セリカXX(2代目スープラ)や、初代SA型マツダ サバンナRX-7とは一線を画すデザインです。
3)ホンダ バラードスポーツ CR-X
出典:http://www.honda.co.jp/sportscar/sportscar/ballade_sports_cr-x/
1983年に発売された初代CR-Xは、当時のシビックの姉妹車 バラードのクーペモデルです。
特筆すべきは車両重量の軽量さで、グロス値で110psを発揮する1.5リッターエンジンを搭載し、車重はわずか800kgでした。
セミリトラクタブルヘッドライトは1983年のデビュー時から採用され、1985年9月に実施されたマイナーチェンジで固定式へと変更されています。
リトラクタブルヘッドライトが絶滅した理由
リトラクタブルヘッドライトは2000年代初頭まで生産されていましたが、現在では生産しているメーカーは皆無です。
そんなリトラクタブルヘッドライトが絶滅した理由は、主に4点考えられます。
1)歩行者保護の観点
リトラクタブルヘッドライトの点灯中に歩行者と衝突した場合、ライトに衝突した歩行者の負傷度合いが高まる危険性がありました。さらにリトラクタブルヘッドライト搭載車のフロントノーズは低く、およそ歩行者の膝関節の高さに相当します。
そのため、膝関節に回復不能なダメージを与える恐れもありました。
ちなみに、最近の車両のフロントノーズは軒並み高く設定され、概ね大腿骨の高さです。
2)空力的な意義が薄い
一般的な速度域では、フロントノーズが低くても高くても、フロントに凹凸がなくても、空力上大きな違いがないことが分かってきました。そのためリトラクタブルヘッドライトを採用し、低いフロントノーズを実現しても、量産車の空力的には効果が出にくいのです。
むしろ車両周辺の空気流を整える方が、燃費向上や操縦安定性の向上につながるとされています。
3)コーナリング性能に悪影響
リトラクタブルヘッドライトはヘッドライトを可動させるため、モーターやギアなどのギミックをフロントノーズに搭載しています。そのため重量は当然、固定式ヘッドライトよりも重くなり、フロントノーズに重量物があると、コーナリング時に車両に働く遠心力が大きくなり、車両姿勢の安定性に欠けて危険な車両になり得ます。
日産 180SXのヘッドライトをS13型シルビアに変更した「シルエティ」が走り屋に流行したのも、この理由が大きいようです。
4)小型高性能ヘッドライトの登場
3代目マツダ RX-7のドレスアップに固定式プロジェクターヘッドライトへの換装が流行しました。フロントノーズの軽量化も流行した理由ですが、小型大光量のプロジェクターヘッドライトが安価になり、後付けできるようになったことも要因と考えられます。
3代目RX-7のヘッドライトカバーは正面から見ると高さは低いのですが、プロジェクターヘッドライトは可動させなくても搭載可能。
小型レンズと薄いヘッドライトカバーの組み合わせはスポーティーなイメージを醸し出し、リトラクタブルヘッドライトに代わるスポーツカーアイテムになっています。
まとめ
しかし自動車の高性能化と衝突時の歩行者保護という新しい観念により、リトラクタブルヘッドライトは市場から撤退。
リトラクタブルヘッドライトの歴史は、自動車の高性能化と自動車に対する概念の成熟化の歴史でもあったように思います。