今更だけどFRPとカーボンのお話。エアロパーツの素材について。

今更だけどFRPとカーボンのお話。エアロパーツの素材について。

特集

FRPとカーボン、実はどっちも繊維強化プラスチックなんです…

「FRP」「GFRP」「CFRP」「ウェットカーボン」「ドライカーボン」などなど、社外エアロパーツを調べているとよく見かけるこれらの材質名。

しっかりと違いを把握している人は意外と少ないです。知らずに買うと後悔するかも?

なんで同じ形なのに価格が違うの?性能にどんな差があるの?街乗りで普段使いはOK? 

それぞれの素材の持つメリットとデメリットを、筆者の経験談を交えながら徹底解説!

特に誤解されやすい「ウェットカーボン」と「ドライカーボン」の違いは製法の紹介も交えながら詳しく掘り下げます。

これから初めてのエアロパーツ選びをする人は必見!一緒に学んでいきましょう!

そのエアロパーツ、どんな材質で出来てるか知ってる?

©︎Rainbow Auto

リップスポイラーにエアロバンパー、サイドスカートにエアロボンネット…
 
愛車のスタイリングをグッと引き締めるエアロパーツはとっても魅力的ですよね!
商品ページやカタログを眺めているだけでもワクワクします♪

皆さんはパーツの商品説明欄を見ていて、材質という項目があることにお気づきでしょうか?

©モタガレ 商品説明欄より抜粋

エアロパーツには「FRP」「カーボン」といった複数の材質が用意されていることが珍しくありません。それぞれの素材がどんな特性かは知らなくても名前自体は聞いたことのある人は多いと思います。

しかし同じ形状なのに、なぜ複数の材質を用意するのでしょうか?価格に目を移すと…

©モタガレ 商品説明欄より抜粋

なんと2倍も価格が違います!繰り返すようですがパーツ自体の形状は全く同一。

しかしこれにはちゃんとした「理由」があるのです。知らずに買うと痛い目を見ることも⁉

今回はエアロパーツによく使用される素材である
【 FRP 】【 CFRP 】(ウェットカーボン・ドライカーボン)
について、それぞれのメリット・デメリットを筆者の経験も交えながら詳しく解説していきます!

なぜ同じパーツで複数の材質を用意するの?

そもそも、なぜ同じ形状の部品をわざわざ複数の素材で用意するのでしょう?

単刀直入に言うと「コストと性能の兼ね合い」

自動車のエアロパーツはユーザーが想像する以上に非常に多くの「手間、時間、開発費」を注いで開発されています。ただ見た目がカッコいいだけではもちろんNG。

空力性能や冷却効率、年々厳しくなる衝突安全基準など、非常に多くの課題をクリアしたうえで発売される、言わば各メーカーの努力の結晶といえるでしょう。

いっぽうで価格が高すぎて買ってもらえないのではまさに本末転倒。

そこでメーカーは、肝心の空力性能や安全性を決める形状はそのままに、用途別に適切な材質のラインナップを展開することでより多くのユーザーにパーツを届けようとするのです。

ですから、パーツを選ぶユーザー側も材質の特性をシッカリと理解しておく必要があります。

良い買い物をするためにも、それぞれの材質が持つメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう!

① GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)/通称:【 FRP 】

軽量・丈夫なエアロパーツ素材のスタンダード

©ings

FRP(繊維強化プラスチック)とは、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などのプラスチック素材に繊維を複合することで強度を向上させた強化プラスチックの総称。

一般的に自動車用部品で単に「FRP」と表記されている場合は、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の事を指す場合が多いです。

プラスチック素材単体では弾性率(力が加わった時の変形に対する強さ)が低く、エアロパーツにおける風圧など外部から大きな力が加わる物の構造用材料としては適していませんが、ガラス繊維のような弾性率の強い素材と組み合わせることで充分な強度を生み出しています。

比較的安価で軽量、強度が高く、身近なものでいうとユニットバスや窓枠、ボートの船体や信号機などにも使われているまさに万能素材。

また、軋み音が出やすいなどの理由で一般的ではありませんが、その軽量さを活かして主にスポーツカーのボディの構造材料として使われるケースもあります。

代表的なものではシボレー コルベットやロータス エランなどが有名で、ボディ外板のみだとマツダ AZ-1などもFRPを採用していました。

GFRP (ガラス繊維強化プラスチック)の【長所(メリット)】

  • 金属と比較して軽量で比強度(密度当たりの引っ張り強さ)が高い
  • 成形、穴あけなどの加工が容易で造形の自由度が高い
  • 腐食に強く錆びないため耐候性が高い
  • (非金属素材の中では)比較的安価に制作することができる
丈夫で加工しやすく耐候性が高いといった、クルマの外装部品にうってつけの特長を兼ね備えています。

エアロパーツの中でも最もスタンダードな材質のひとつで、特にその加工性の良さと安価さからいわゆる社外エアロと呼ばれるサードパーティ製品では古くから利用されてきました。

ノウハウさえあれば個人でもある程度の補修や加工なども可能。

特にクラッシュしてエアロを破損してしまう機会の多いドリフト競技をするユーザーたちの間でリーズナブルなFRP製のリップスポイラーやエアロバンパーが支持され、国内外問わず社外パーツ市場で普及を後押ししたという背景もあります!

GFRP (ガラス繊維強化プラスチック)の【短所(デメリット)】

  • ぶつけたり擦ったりすると割れやすい
  • 特にネジ穴付近など、経年劣化でクラック(ヒビ割れ)が入りやすい
  • 素材の分離が困難であるため、リサイクルや廃棄処分が難しい
ユーザー側から見たときのFRPの弱点は何といっても「ヒビ割れ」に対する弱さ。

前の項で触れた通り、FRPは金属と比較して比強度は高いものの、粘り強さに欠けるため一度に強い衝撃が加わると破断するという特性を持っています。

そのため特にクルマの下回りに装着するバンパー、リップスポイラー、サイドスカート等においては段差などで擦ったりぶつけたりすると「バキバキッ」と割れてしまうこともしばしば!

実際に筆者も愛車のNAロードスターに社外品のFRP製リップスポイラーを装着した数日後に、駐車場の出口で思いっきり擦ってしまい、大きなヒビを入れた苦い思い出があります。(あの音は未だにトラウマ)

グラスファイバーシートと樹脂で継ぎ当てすればある程度補修は可能ですが、割れ方次第で修復不可能となるケースも多いので取り扱いには注意が必要です。まさに「割れ物注意」

またネジ穴付近からのクラックもFRP製エアロの定番トラブル。

ぶつけないよう注意していても、走行中の振動や風圧などによる経年劣化により取り付け部分から徐々にヒビが広がっていくケースも多々見られます。

FRP製エアロを組んだ中古車や中古パーツを購入する際は特に要注意!

最悪の場合、目に見えない部分のヒビから亀裂が入り風圧で走行中に突然割れて飛んでいくなんてコトも。日ごろから破損がないかこまめにチェックしながら使用する必要があるでしょう。

破断しやすいといった特性に加えてリサイクルや廃棄の難しさという問題もあり、自動車メーカー純正部品の材質としては比較的敬遠されがちな傾向にあるようです。

②CFRP(炭素繊維強化プラスチック)/通称:【カーボン】

【カーボン=FRP】という真実。カーボンには二種類ある!?

©︎VARIS

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)とは、強靭な炭素繊維シートで樹脂を強化した複合材料の総称です。

勘のいい方はお気づきかもしれませんが、実は「FRP」と呼ばれているモノと「カーボン」と呼ばれているモノの違いは樹脂を強化するために使う繊維の種類が違うだけ。

根本的には「カーボン」と呼ばれるモノも「FRP」と呼ばれるモノも同じ「繊維強化プラスチック製品」なのです。

ではなぜ安価な材質であるFRPに対してCFRPは高級品としてあんなに高値で取引されているのでしょう?

もちろんボッタクリじゃありませんよ!これにはちゃんと理由があります。

CFRP/カーボン製品はグラスファイバーを使う普通のFRPと比べ、圧倒的に「強く・軽く・作るのにコストが掛かる」のです。

ただし一般的にカーボンと聞いて思い浮かぶ上記のイメージは実はすべてのCFRP製品に当てはまるわけではありません。厳密にいうと圧倒的に強く軽いのは「ドライカーボン」と呼ばれる材料の性質。

そう、CFRP/カーボン製品って実は大きく分けると2種類あるんです。
  • ウェットカーボン
  • ドライカーボン
パーツカタログを見ていると「カーボン製」と表記されている商品の中でも比較的安価なものから、とてつもなく高価なものまであることに気づくと思います。

これはウェットカーボンとドライカーボンの価格差がそのまま反映されているのです。

意外と知らない人も多いこの2つの違いについて解説していきましょう!
 

【ウェットカーボン】お手軽にレーシーな雰囲気が欲しいならコレ!

©︎ESQUELETO

比較的リーズナブルな価格帯のカーボンパーツに使われるのがウェットカーボン。

エアロパーツだけでなく最近はセンターコンソールなど、純正内装パネルに使われているのもよく目にします。

ウェットカーボンを簡単に言ってしまうと

「FRP(GFRP)とほぼ同じ製法でガラス繊維の一部を炭素繊維シートに置き換えた素材」

となります。つまり【重量・強度】といった性能や材質の特性は通常のFRPとほぼ同じです。
(厳密にいうと表面の炭素繊維シートぶん若干強度は上がります)
もちろんFRPなので、同形状の鉄板製パーツと比較して軽量なことに違いはありません。


製法はガラス繊維のFRP製品(GFRP)とほぼ一緒。

1. 炭素繊維とガラス繊維を型の中に敷き詰める
2. そこに液体樹脂を流し込む
3. 気泡や隙間が無くなるようにハケなどで均す
4. 樹脂の乾燥が終了して固まったものを型から抜く


という手順で作られています。

性能がFRPとほぼ同じなのにコストが上がる理由としては、手順3の液体樹脂の均し作業がどうしても職人さんの手作業になるのと、素材の炭素繊維シートがガラス繊維に比べ数倍の価格であることに起因しています。

一見するとメリットがあまりなさそうに見えてしまいますが、後述のドライカーボンと比較すると
かなり安価に入手できるのはライトユーザーにとって代えがたい魅力。

また、FRPとほぼ同じ特性という点を逆手にとって加工しやすさを活かしたり、破損した際にある程度DIYで修復することができるのも強みでしょう。

そこまでの強度を求められる部分でなければ、後述のドライカーボンよりもメリットが大きい場合もあります。

お手軽に、普段使いでも気兼ねなくリアルカーボンパーツの雰囲気を味わいたい人にはピッタリ!
 

【ドライカーボン】 今やモータースポーツには欠かせない高級ハイパフォーマンス素材

©︎Rainbow Auto

【超軽量・高剛性】という一般的なカーボンパーツのイメージに当てはまるのがドライカーボン。

非常に高額ながら圧倒的な軽さと強度を兼ね備えたドライカーボンは、モータースポーツの世界でノウハウを蓄積してきました。

F1やSUPER GTなどをはじめとするレーシングカーのボディパネルやウイング、ディフューザーなどのエアロパーツ、モノコックを含む主要パーツをはじめ、近年では公道を走るハイパフォーマンスカーにも同様に採用されています。

ウェットカーボンや一般的なFRPと大きく異なるドライカーボンパーツの製法。
ここではドライカーボンの製法として最も一般的なオートクレーブ法を例に紹介しましょう。

1.熱で硬化する樹脂をあらかじめ炭素繊維シートに染み込ませておく(この状態のシートをプリプレグという)
2.パーツの型の中にプリプレグを重ねていく
3.シートを敷き詰めた型をオートクレーブ(圧力容器)の中で真空引きで圧縮し、余分な樹脂を絞り出す
4.更に真空を保ちながら加熱し、繊維内の樹脂を高温高圧下で硬化させる
5.冷めたら型から外して完成


あらかじめ樹脂の染み込んだ繊維から更に余分な樹脂を絞り出すため樹脂含有量はウェットカーボンと比較して非常に少なく、製品中の炭素繊維の割合が非常に高い状態で仕上がります。

一般的に誤解されやすいのですが、実は比重自体はFRPやウェットカーボンよりもドライカーボンの方が大きいので、同じ大きさ・厚みだとドライカーボンの方が重くなります。

しかしドライカーボンはFRPやウェットカーボンよりも強度が数十倍高く、格段に薄く作ることができるため結果的に超軽量・高剛性に仕上げることができるのです!

また製品の品質にもよりますが、製法の違いの関係で一般的にドライカーボンの方がウェットカーボンよりも炭素繊維シートの「ヨレ」が少なくなるため、いわゆるカーボン柄が美しく仕上がる傾向があるのも大きな魅力。


しかしその製法ゆえ、高額な特殊設備が必要で昇温・降温に数時間掛かり生産性が悪く、更に炭素繊維自体が機械加工では切削しにくく、穴あけなどの加工もしづらいという欠点を抱えています。

こうした生産上の問題と炭素繊維の価格も相まって、ドライカーボン製のパーツはFRPやウェットカーボンと比較して高額なプライス設定とならざるを得ないのです。

またドライカーボンは強度が高いものの、破損時のDIY修復は限りなく困難。

万が一の際には基本的にパーツ丸ごと交換になってしまう点にも注意が必要です。
段差に引っかけて割ってしまい一発ウン十万なんて話も珍しくありません。


しかしそんな様々なデメリットをも納得させる機能性と圧倒的な満足感はドライカーボン製パーツならではの魅力。

まさに究極のパフォーマンスを追求するためのチューニングパーツといえるでしょう!

実際に【FRP・ウェットカーボン・ドライカーボン】を比べてみた

©︎First Molding

実際にFRP・ウェットカーボン・ドライカーボンのラインナップがある軽量ボンネットのデータを表にしました。
もちろん同車種用、同メーカー製品。形状も同一のモノ。
 
   FRP    ウェットカーボン ドライカーボン
 重量  6.0㎏ 5.5㎏ 4.5㎏
 価格  ¥73,700 ¥111,100 ¥177,100

Sample:First Molding製 エアロボンネット for FD2 シビックタイプR
※説明欄表記は(カーボンFRP・フルカーボン)ですが、ここでは解説の便宜上(ウェットカーボン・ドライカーボン)表記

表にまとめると、今までの解説がよりいっそう理解しやすくなるかと思います。

材質の特性を理解していれば、自分に必要なモノをコスパ良く手に入れられますね!
 

【FRP・ウェットカーボン・ドライカーボンの特徴をまとめておさらい!】

ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)/ 【 リーズナブルでエアロパーツ入門にもオススメ! 】

【長所】
  • お手頃な価格設定のものが多い
  • 成形、穴あけなどの加工が容易で造形の自由度が高い
  • 破損時にある程度であれば修復できる
  • サビ、腐食に強い
【短所】
  • ぶつけたり擦ったりすると割れやすい
  • 特にネジ穴付近など、経年劣化でクラック(ヒビ割れ)が入る
  • 素材の分離が困難であるため、リサイクルや廃棄処分が難しい

ウェットカーボン(CFRP) /【 普段使いの手軽さとレーシーさを両立したい人向け!】

【長所】
  • ドライカーボンよりも安価にカーボンパーツの見た目を手に入れられる
  • ガラス繊維のFRPと特性がほぼ同じなのである程度DIYで加工、修復できる
【短所】
  • 重量や強度といった性能はFRPと大差ない
  • リーズナブルとはいえFRPよりは価格が高い

ドライカーボン(CFRP)/【 モータースポーツ競技用や究極のパフォーマンスを手に入れたいならコレ!】

【長所】
  • 超軽量・高剛性。性能は折り紙付き!
  • (製品の品質にもよるが)一般的にドライカーボンの方がウェットカーボンよりも「ヨレ」が少ないためカーボン特有の柄が美しく仕上がる傾向にある
  • モータースポーツの最前線で使用されている材質という圧倒的な満足感
【短所】
  • とにかく価格が高い!
  • 加工性が非常に悪くDIYでの穴あけ加工などは困難
  • 破断してしまうと修理は難しく、パーツ丸ごと交換になることも多い

まとめ:【適材適所】自分の使い方に合った材質を選ぼう!

©︎モタガレ

いかがでしたでしょうか?

材質選びはまさに「適材適所」。それぞれの特徴を理解することで後悔しないパーツ選びをしましょう!

今回は社外エアロパーツによく使われるFRPとCFRP(カーボン)について解説しました。

他にも特に純正の外装部品にはこの他にもポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)などの材質も多く使われています。

皆様のパーツ選びに少しでも役に立てると嬉しいです!それでは良いカーライフを!

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