世の中には『時代を先取りしすぎた車』というのが存在し、販売終了して10年以上たってから、「ああっ、今あの車が売っていれば新車で欲しいのに!」という意味で突然話題になる車があります。
特に日本と流行の時期がズレている輸入車ではありがちな話で、ホンダUSAが製造し、日本でもちょっとだけ販売していた、ホンダ・エレメントもそんな1台だと思います。
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北米からやってきた個性的SUV、エレメント!
全長4.3mはともかく、全幅1.8m超は2000年代前半の日本ではまだ大きすぎるような……さりとて特に高級感と思わせる仕様でも無く、ポップな感じはヨーロッパ車のようでもありますが、顔つきを見ると決してフィアットやルノーにも似ていません。
初代トヨタ bBの車高を上げてSUVルックにしたような……と、ここまで考えれば答えは限られてくるのではないでしょうか。
これぞホンダUSAがハイスクールから20年代前半までの若者向けに開発したCR-VベースのSUV『エレメント』です。
当時のCR-Vに初代トヨタ bBのようなカクカクしたボディを与え、使い勝手の良いラゲッジスペースを用意、観音開きドアで後席の乗降性も確保されています。
リアドアの構造図を見ると、リアドア前部に強化材が入った事実上のビルトインBピラーと呼べるものになっています。
また、フック&キャッチャーシステムという、側面衝突時にドアがキャビンに食い込まない構造を採用しており、Bピラーが無くても不安が無いことをアピール。
日本での発売当時(2003年4月)はまだ、RX-8もFJクルーザーも、タントの大開口部スライドドアモデルも無かった時代だったので、Bピラーの無い大開口部車の販売には非常に気を使った時代でした。
そんなエレメントが実は、今になって魅力タップリな事がわかり、再評価されている『熱い廃版車』となっているのです。
販売は短期間だったものの、今ならわかるこの魅力?
このエレメント、北米ではかなりの人気モデルとなって2011年まで8年間も販売されていたのですが、日本では(ホンダカーズに集約前の)ベルノ店で2003年4月~2005年12月までの2年8ヶ月しか販売されなかったという、かなりの短命モデルでした。
その理由としては、やはりBピラーレスの開口部が不安だったというわけではないはずです。
もちろん、2003年当時といえば、まだ『ボディ剛性不足に陥りやすいピラーレス4ドアハードトップ』という、バブル時代にちょっと流行ったモデルへの反省が残っていた時代ですが、その一方で同時期やその後に登場したBピラーレス車が売れなかったという事もありません。
単純に、フロントマスクが日本人好みで無かったことや、当時としてはフェンダーなどボディパーツに樹脂製無塗装パーツが多すぎて、安っぽく見えてしまったという説が濃厚です。
もっとも、2010年代ともなれば樹脂パーツ多用でSUVルックにするのはむしろトレンド。
さらに、北米モデルでは日本への輸入終了後になってから樹脂部分ボディ同色モデルが発売されたので、樹脂無塗装パーツが原因ならホンダはこれを輸入するまで粘れば良かったのでは?という気がします。
案外、原因としてはUSアコードワゴンやアコードクーペ、シビッククーペといった、1990年代に流行ったアメリカ製ホンダ車が、実は後々になって維持が大変なことが判明したという事情があったのかもしれません。
ただ、最近になって個性的なルックスや以外に、長尺物を積みやすいフラットフロアや車内の防水&撥水仕様など、良好な使い勝手に目をつけた人達が再評価を始めており、程度の良いものは中古車市場で意外な高値がついています。
まとめ
現在の中古車市場やSNSなどで散見される評価を見る限り、ホンダUSAからの輸入打ち切りはちょっと早かったかも?と考えさせられるエレメント。
ただ、当時のWEBカタログを見る限り、この車を日本では『どんなユーザーが、どんなシチュエーションで、どう楽しむか』というビジョンを示せておらず、あまり積極的に拡販しようとしていないようにも見えてきます。
確かにこの頃のホンダはCR-Vの人気も一段落してしまい、SUVには少々冷淡な時期ではありましたが、一方で汚れを拭き取りやすく、濡れたままの荷物を積み込みやすいタフギア的な部分は当時のヒット作、初代日産 エクストレイルに通じる部分でもありました。
つまり、売り込み方次第ではヒット作になる資質が十分にあったのですが、それを生かしきれていないのが何とも惜しくてもどかしいモデルでもあったのです。
新型CR-Vは3列シート仕様もある事が売りのようですが、中古車相場の動きを見る限り、フィットベースでも良いのでエレメントのコンセプトをもう一度見直しても良いのでは?と考えてしまいます。
現在既にエレメントを見直している人は、なかなか良いところに目をつけたのではないでしょうか。