アプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングルって何?

アプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングルって何?

特集

クロカン系のSUVや、リフトアップ系のカスタムを紹介する記事や商品説明で一度は目にしたことがある、アプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングル。

改めてどんな役割を示す数値なのか?カスタムをすることでどう変化し、メリットが得られるのかを明確にすべく、それぞれ説明します。

単に最低地上高が高いだけでは得られないオフロードの実力!

このジープ・ラングラーなどモノコックボディだが、優れたアプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングルによってクロカンとしても高い実力を持つ Photo by Powhusku

1990年代以降、「乗用車に大径タイヤを履き、足回りの設定と合わせて最低地上高を引き上げたSUV」、クロスオーバーSUVが数多く登場し、2020年代でも軽自動車からスーパーカー、超高級車まで、世界的に販売の主流となるほどに成長しました。

もちろん、単に最低地上高が高いだけでも、それ以下の凹凸がある程度の悪路走破性は期待できますし、今は優れた電子制御による駆動制御やブレーキ制御、スロットル制御によって、たとえ2WD車でも並の乗用車より悪路に強いと考えてよいでしょう。

ただしこれが、平坦な路面ではなく険しい地形で道なき道をクリアするとなると話は全然別で、「アプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングル」の3要素をクリアしたクロカン車の出番です。

中にはクロスオーバーSUVでも車体形状の工夫でクリアしたクルマもありますが、基本的には強固なラダーフレームや機械的信頼性の高いパートタイム4WDシステムとセットで、初めて絶大な威力を発揮すると考えてよいでしょう。
以下に、それぞれの定義と役割を紹介します。

アプローチアングル

アプローチアングルが不足しているクルマでは、このような地形でフロントバンパーやフロントオーバーハング底面が引っかかり、走破できない。 Photo by Tours and Tales.com

定義としては、「フロントバンパー底面からフロントタイヤの接地面に直線を引き、その直線と平坦な路面の角度」です。

「アプローチ」、つまり障害物なり障害となる地形に対し接近、乗り越えて行く際に重要な「対地障害角」で、クロスオーバーSUV」の中でもアプローチアングルを全く考慮しないエアロパーツなど組んでいたら、それはもう険しい地形の走破能力を捨てたも同然です。

クロカン車ではそれを考慮し、フロントバンパーを高い位置に配置し、その先端からフロントタイヤの間に、タイヤ以前に障害物を引っ掛けてしまうような、余計な突起や盛り上がった部分を設けないよう配慮されています。

具体的事例としては、スズキ ジムニーが41度、トヨタ ランドクルーザー300が32度に設定され、それぞれこの角度までの障害物はフロントタイヤが乗り越えられる事になり、ジムニーの方がより険しい地形に対応しているわけです。

なお、バンパーの位置や車体形状にも左右されますが、根本的にはフロントタイヤから先のオーバーハングが短いほど有利なので小さなクルマほどアプローチアングルを大きくしやすく、軽クロスオーバーSUVの傑作、スズキ ハスラーもアプローチアングル29度を誇ります。

デパーチャーアングル

デパーチャーアングルが不足しているクルマでは、このような場面でリアバンパーやマフラー、リアオーバーハングが地形に引っかかってしまう。 Photo by Tours and Tales.com

定義としては、「リアバンパー底面からリアタイヤの接地面に直線を引き、その直線と平坦な路面の角度」で、アプローチアングルとは逆です。

デパーチャーアングルならではの特徴として、バンパーや車体だけでなくマフラーの干渉も考慮せねばならないことでしょうか。

アプローチアングルの許容範囲内で障害物や地形を乗り越える際、このデパーチャアングルの角度が緩いようだと、リアのどこががひっかかって引きずってしまい、車体が傷つくだけではなく、最悪の場合はクリアできません。

バックする時はデパーチャアングルとアプローチアングルの関係が逆になるので、どちらが劣っていても障害のクリアはできないためクロカン車にとってはかなり重要な要素。

具体例としてはジムニーが51度、ランドクルーザー300が26度でやはり車体が小さく短いほどオーバーハングを短くできるため、ランドクルーザーの3列シートロングボディ車はかなり不利、軽クロスオーバーSUVのハスラーは50度でかなり優秀です。

ランプブレークオーバーアングル

このような地形でランプブレークオーバーアングルが不足すると、坂の途中か登りきった直後に車体底面がつっかえる Photo by Emigdio Hernández

定義としては、「車体中央底面からフロントタイヤ・リアタイヤの接地面に直線を引き、フロントタイヤからと、リアタイヤからの直線の交点から導き出される、リア側の角度」が一般的。

岩やデコボコした地形、あるいは急な登坂から平坦な道に戻る際の角度が急、さらには平坦な道でも前後輪の間に出っ張りが入る場合の走破性を判断するもので、このランプブレークオーバーアングルが不足だと、最悪の場合は前後輪とも浮いて「亀の子」になってしまい、動けなくなります。

普通のクルマでも、極端にローダウンしたクルマでは路面がカマボコ状に盛り上がった踏切や、道路から駐車場への段差をクリアするのに「亀の子」になったり、車体底面をこすったりするので、クロカン車以外でも気にした方がいい数値です。

もちろんホイールベースが長く最低地上高が低いクルマほど不利で、具体的にはショートホイールベースで最低地上高も205mmと高いジムニーが28度、大柄でロングホイールベースですが、最低地上高を225mmとジムニーより上げて頑張ったランドクルーザー300で25度。

乗降性やスタイルに配慮せねばならないクロスオーバーSUVはこれが一番苦手で、最低地上高180mmのハスラーはカタログにランプブレークオーバーアングルの記載まではなく、あくまで「クロカン風デザイン」の限界ということになります。

また、同じ車種でもホイールベースの長さによる影響は大きく、ランドクルーザーやかつてのパジェロに後席ドアのないショートホイールベース車があったのはそのためで、インドから市販が始まった5ドア版ジムニーシエラも、乗用車としての利便性を上げたのと引き換えに、ランプブレークオーバーアングルが犠牲になっていて、悪路走破性は控えめです。

3種の要素にタフな構造や4WDシステムが加われば最強!

アプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングルの3要素にタフさを加え、初めて本格的なオフロード性能は成立する Photo by ray_explores

具体例でハスラーを例に出したように、市販乗用車のモノコックボディがベースのクロスオーバーSUVでも、ボディ形状の工夫や最低地上高を引き上げることによって、ある程度はクロカン車並の障害物や険しい地形の突破能力を持たせる事は可能です。

ただし、そうした地形を突破する際には、時に車体を地形のどこかに当てたりこすったり、浮いたタイヤがドスンと地面に叩きつけられたりと、車体側への衝撃に耐えねばならず、モノコックボディの場合はビルトインラダーフレームや、肋骨のようなリブフレームを溶接して組み込んでいないと、簡単に歪んでしまいます。

また、単純な生活4WDでは険しい地形にタイヤが浮くようだと駆動力が逃げますし、それを抑えても駆動系への負担に耐えるような設計がなされていない事も多く、あまり険しいオフロードを走るのは、あくまで非常時に限ると考えた方がいいでしょう。

強固なラダーフレームに頑丈なボディを乗せ、信頼性の高い機械式パートタイム4WDに機械式LSDや電子制御デフを駆使してこそ、アプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングルの3要素に優れたクロカン車が高い威力を発揮するのです。

大抵の人はそこまでの性能を要求される用途でクルマを使わないはずですが、もし非常時以外でもそのような険しい道を走る用途であれば、最低地上高が高く、それらしい見た目をしただけの「カッコだけクロカン風オフローダー」ではなく、「本物のクロカン車」を選ぶべだと心得てください。

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