一般的な自動車ユーザーなら大抵は整備点検や修理でお世話になる、そのクルマのメーカーの販売店または販売会社、通称「ディーラー」ですが、クルマを自分好みにカスタマイズしていくとしばしば聞くのがディーラーへの入庫を断られた、出禁になったという話。
昔はそんなに厳しくなかった…と記憶している人なら違和感を感じるかもしれませんが、ディーラーが入庫するクルマの規制を厳しくしてだいぶ経つので、若いユーザーはそれが当然と思っている人もいるかもしれません。
それでもちょっとしたことで入庫拒否扱いになって驚くこともありそうなので、今回はそうしたディーラー事情を紹介しましょう。
えっ出禁?!突然どうしたのよディーラーさん?!
最近はリースや残価設定ローンなど、後々なるべく新車に近い状態で返却するようなクルマの購入・所有方法も増えてきていますが、新車・中古車に限らずできればしっかり買い取って「自分のもの」にしたいと思うユーザーも多いはずです。
そういう所有欲が深いユーザーはクルマを自分好みにカスタムしたいという欲求も強いですから、さまざまなチューニングやドレスアップに手をつけていくものですが、そこに立ちはだかるのが正規ディーラーからの「入庫禁止」、あるいはクルマの「出入り禁止」。
それまで普通にお付き合いを続けていたのに、ある日突然入庫を拒否されるわけですが、「何もしていないのに入庫拒否された!」なんてことはまずありえず、そこにはちゃんとした原因…それもユーザー側に原因があります。
「このカスタムは合法」と言われても…調べるコストが必要
原因とみてまず間違いないのは、「そのおクルマ、新車からちょっとばかり変わってやしませんか?」ということで、要するに小はちょっとした部品交換から、大は見かけも性能もガッチリ変わる改造まで、何らかのユーザー好みなカスタムが施されていること。
もちろんユーザーからすれば、「だってこれ、ちゃんと車検も通る合法だよ?!」という言い分はあるでしょう。
しかしそれが事実であっても、ディーラーとしてはカスタムされた部分のひとつひとつを、合法かどうか調べなければならず、当然人手も時間もコストもかかりますが、そのための費用を請求されたらユーザーは嫌な顔をします。
しかも、「このカスタムはダメですよ」と言ったところで、「だって◯◯ではいいって言われたもん!」とゴネられる可能性はかなり高いため、そんなトラブルの原因を抱えるくらいなら、最初から入庫していただかなくて結構です…というわけです。
ディーラー以外に整備工場や量販店でも「指定工場」は厳しい
特に厳しいのは、ディーラーだけではなく一般の整備工場や、ピット作業が可能な量販店などでも、自分たちで車検を通す権限を持つ「指定工場」で、車検そのものは車検場で通す「認証工場」でも厳しい場合があります。
なぜかといえば、そのクルマが違法改造だった場合、そのクルマとユーザーが取り締まられるだけでなく、最悪の場合は車検整備を行ったり、車検を通した事業者の名前が国土交通省に公表され、指定や認証の取り消しといった重い処分が課せられるからです。
いやちょっと待った、それなら車検に通る合法カスタムまで出禁にすることはないんじゃないか…と思うかもしれませんが、先に書いたように調べるコストがありますし、車検対応ギリギリだと検査の時期や方法によってはアウトな場合もありえます。
そのため、ディーラーなど事業者側では車検に通すための保安基準からさらに余裕を持った、「ディーラールール」とも呼ばれる独自基準で判断したり、ひと目で判断がつかないグレーゾーンなクルマは最初からお断りすれば、何の問題も起きません。
逆に言えば、何でもかんでも受け入れようにも、ディーラーなり他の事業者でも、ワケのわからない社外品パーツの装着や、それによる影響がどこまでどのように及ぶかについて、何の責任も持てないわけです。
基準は事業者によってマチマチだが、確実にアウトな例
じゃあどのくらいまでならOKなの?という基準ですが、これはもう独自ルールですから、事業者によって判断が分かれていて、どこかに線引きなどありません。
極端な話、タイヤやホイールが純正と異なるだけで「そのタイヤでいいのかわからない」、「そのホイールがちゃんと強度があるものなのか、弊社では判断がつきかねます」といった理由で断られるケースすらあります。
特にインチアップなどは、合法であっても「クルマのドアを開けたところに貼ってある適合サイズ表以外のタイヤは認めません!」というケースが多数。
ただしそれらは見た目ですぐわかりますし、純正に戻してくれれば(あるいは車検にあたって戻させてもらえば)出禁は解除しますよ…もしくは、次までに戻してきてくださいね、となる場合もありますが、これは絶対にダメです!という例がECU(コンピューター)。
なぜかといえば、最近のクルマはディーラーへ入庫した際に「診断機」という機械をECUにつないで異常がないかを診断、あるいは記録を確認するのですが、そこでECUが純正ではない状態…プログラムの書き換えや社外ECUを使っていると、一発でバレます。
そうなるとECUを純正に戻すなんてディーラーで簡単にできることではなく、一発で出禁となるケースが多いようです。
また、メーカー純正のノーマル車でも、あまりに特殊なマイナー車だった場合は改造車とカンチガイされて出禁になりかける笑い話もあり、筆者が以前乗っていたダイハツのストーリアX4など、その好例でした。
昔のディーラーはそんなコトなかったような…?
ここで25年くらい前のディーラーを記憶している方なら、「昔はそんなコトなかったけどな?」と不思議に思うかもしれません。
実際、筆者の若い頃の知り合いにもディーラーメカがいて、その勤め先はチューニングを得意としており、なんなら社外品のチューニングパーツへ勝手に部品番号を登録してしまい、客が許す限りどんなチューニングでもやりましょう、はいタービン交換で馬力倍増!
そんな仕事が普通でしたし、1990年代半ばにチューニングパーツの多くが解禁されて合法になったことで、ディーラーも新しい商売の種ができて、もともとクルマ好きなディーラーメカも仕事に楽しみができて、ユーザーも喜び誰もが幸せ、という時代でした。
しかし、その結果として違法改造やチューニング、ドレスアップによる事故やトラブルが増えると、ディーラーやその他事業者にとっても、「それらにいちいち対応していたら割が合わない」と判断し、2000年頃からでしょうか、一斉に「改造車は出禁」が始まります。
あまりに唐突だったために全国各地で悲鳴のような声が上がり、ディーラーでは客が減って経営が苦しくなり、ディーラーメカはやりがいもないのに給料は低く…と「負のスパイラル」が起こっているように思えますが、もう昔に戻れないのでしょうか?
GR GarageやNISMOパフォーマンスセンターなど、チューニング御用達ディーラーもある
やや行き過ぎた感のある「ディーラールール」に危惧を感じたのは、他でもない自動車メーカーだったかもしれません。
何しろディーラールール真っ盛りの2000年代半ば?2010年代半ばあたりは国産スポーツカー暗黒時代、白物家電みたいなクルマばかりが増えて「若者のクルマ離れ」なんて言われますし、やはりイメージリーダーとしてスポーツカーの振興は欠かせないのです。
さらに高品質のチューニングやドレスアップは商売になりますし、ちゃんと保証がついてユーザーも安心、そこでトヨタの「GR Garage」や、日産の「NISMOパフォーマンスセンター」など、チューニングやドレスアップの相談に特化したディーラーが誕生します。
1960年代から1970年代前半あたりに存在した、ディーラーのチューニング相談部門の現代版と言えますが、純正オプションパーツやカスタムパーツだけでなく、社外品も含めた各種パーツの組み合わせで、ユーザー好みの1台を作り上げる手助けをしてくれるのが特徴。
もちろん保安基準に沿った保証付きのカスタムですから、そうしたディーラーで手をかけたカスタムカーなら、出禁にもならないというわけです。
どうしてもディーラーに入庫拒否されてしまう場合は?!
しかし、そうしたカスタムショップ的なディーラーを抱えていないメーカーや、地域によってそういうディーラーが遠すぎる場合など、「カスタムしたいのにディーラーが入庫させてくれない!」とお悩みの方もいると思います。
もちろん、ノーマルへ戻すのを条件に入庫を受け入れてくれるディーラーもあると思いますが、毎回ノーマルに戻してまたカスタムして…と手間をかけていられませんし、ノーマルに戻したままでは当然「カスタム欲」が満たされません。
そういう場合、その地域に存在するカスタム系の専門店へ依頼してしまうのが一番の早道で、何でも屋的にどのメーカーのクルマでも器用にこなすショップから、特定のメーカーや車種に特化した職人系のショップまでさまざまです。
ドレスアップならドレスアップ系のショップへ、オーディオに凝るならオーディオ系、ドリフト含むスポーツ系なら競技やレースで名を売っているショップを選び、その中で何でも屋かその車種に詳しいところへ依頼すれば、大抵の問題は解決するでしょう。
ディーラーや量販店と違い、全国一律のサービスを受けられるわけではないリスクはありますし、大きな看板も出していないから探すのも大変ですが、ディーラーと違っていきなり出禁や入庫拒否はない、という安心感は魅力です。