市販車にはパーツメーカーやショップからさまざまなカスタムパーツが販売されていますが、当然ながらそれらのパーツは実車を元に開発されています。
ただ、数あるクルマの全てを開発車両として購入して元を取れるわけでもなく、主にリリースされるのは需要が確実にあるクルマから…となりますが、「需要がありそう」レベルでもラインアップしたいものです。
そのため、対応車種のラインナップが豊富なパーツメーカーほど「開発車両の募集」をしていますが、開発ベース車だけにその車種なら何でもいい…とはならないところ。
今回は、カスタムパーツメーカーによる「開発車両の募集例」と、開発車両に応募するメリット、応募条件などを紹介します
カスタムパーツメーカーが募集する「開発車両」とは?
人気確実と思われるうえに、確実にカスタムパーツの需要がありそうな新型車は、発売と同時、場合によっては発売前から有力なパーツメーカーやショップがカスタムパーツを組んだデモカーが発表、展示されます。
つまり自動車メーカーと直接・間接的に関係が深いパーツメーカーなら、発売前の新型車(あるいは本格的な量産に入る直前の最終試作車)を入手してパーツ開発に当たっていることを意味しており、自動車メーカーとしても販売促進に役立ちますからそれは大歓迎。
しかし、あくまで発売後に通常のユーザーと同じように購入する場合、または後から新たにパーツ開発を始める場合、購入直後の新車か、せめてまっさらなどノーマル車両をベースにする必要があります。
そこでユーザー側に車両の提供を広く求めるため、公式ホームページの一角で「開発車両募集」のページを設け、ブログやSNSなどでも積極的に周知しようとするパーツメーカーは少なくないのです。
パーツメーカーは低コストで素早く開発できて一石二鳥!
こうした一般から募集する開発車両ですが、パーツメーカーとしては車両を早期に入手し、無料で開発に使えるというメリットがあります。
内外装や走行に関わるパーツをゴッソリ入れ替える、「コンプリートカー」の販売に結びつくのでもない限り、いちいち自社で車両を購入していては利益など出ませんし、デモカーを作るのでもなければ、開発車両を所有するメリットもさほどありません。
また、新型コロナウイルス禍以降の世の中では新車を注文してから納車まで数か月は当たり前、人気車種ならヘタすると年単位、ヒドイ場合はオーダーストップで注文すらできない場合すらあり、納車待ちしている間にパーツ販売の時期を逸してしまいます。
しかし既に所有しているユーザーが募集に応じてくれれば、開発車両をわざわざ買わなくてもいいから開発は低コストで済みますし、クルマが既にあるのですから納車待ちも不要ですぐ開発できるという、まさに一石二鳥!
しかもユーザーの車両を利用できれば、ドレスアップからフルチューンまで手がける総合メーカーとは異なり、マフラーや足回り、エアロパーツなど部分的なリリースに留まるメーカーでもパーツ開発の道が開けます。
もちろん開発車両の募集に誰も応じない…という事もありえますが、その場合はパーツの需要がないと見切りをつけてもいいですし、どのみち損はしないわけです。
ユーザーもパーツ代がタダだったり、いち早く使えたり?!
しかし、募集に応じたユーザーにとっては、タダで自分のクルマを開発に使われたら割に合わない…ボランティアじゃあるまいし、という懸念はあります。
そこはパーツメーカーもよく考えていて、「募集に応じた開発車両のユーザーには、完成したパーツをプレゼント!」というケースが大半で、取り付け工賃を除けば無料で新しいパーツを入手できるわけです。
小規模なショップでも、その後の市販を見据えてパーツ代や工賃の大幅割引…つまり利益は度外視という場合が多く、ワンオフパーツを特注するのでもない限り、かなりオトクにパーツを入手できると考えてよいでしょう。
しかも当然、開発車両のユーザーが手にするパーツは市販と同時、あるいはそれ以前の段階ですから、誰よりも早く装着して自慢したり、その効果を活かすことで、同じ車種に乗る他のユーザーへ差をつけられるというメリットも。
ユーザー側のスキルによっては、試作品を装着してイベント参加、競技会への参加といった、モニターや開発ドライバー的な体験ができる場合もありますし、カーライフの充実という意味でも、募集に応じて損はないと思います。
開発車両の募集に応じるには条件がある
ただし、パーツメーカーとユーザー双方の事情から、開発車両の募集に応じるにはさまざまなハードルがあります。
まず、開発車両はパーツメーカーがユーザーからしばらく預からなければいけないので、ユーザーの住まい(あるいは車両の拠点)がメーカーのある地域にあるか、そうでなくとも実車をメーカーへ届けて、引き取れる環境にある方でなくてはいけません。
また、既に何らかのカスタムを受けていたり、かなりの距離を走って新車同様のコンディションと言えない車両だと、カスタムパーツがその車両に取り付けられるか、所定の性能を発揮できるかという意味で、開発車両に向いていない場合もあります。
要件を満たしたノーマル車でも、販売台数が少なすぎる特別仕様車や限定車、あるいはメーカーオプションやディーラーオプションによっては開発ベース向きではないと考えられるため、型式やグレードだけでなく、さまざまな条件が指定される事も。
そのため、総合すると「なるべく近場で新車に近いノーマル車、それも余計なメーカーオプションなどできれば装着されていないのが望ましい」となり、実際は募集に応じるのに結構なハードルがあったりします。
後述する実際の「開発車両募集」案件でも、長らく募集中のままと思われる開発待ちパーツが結構あるものです。
パーツメーカーはどのように開発車両を募集しているか…実例
では実際に開発車両を公式ホームページで募集している実例を見ていきましょう。
募集事例は、2023年12月21日現在のものです
BLITZ
- カーボンインテークシステム(トヨタ ZN6 86後期型)
- サスペンション(BMW G20 3シリーズなど)
- テレビナビジャンパー(レクサスLC500など)
- パワスロ・スロットルコントローラー/THRO CON(レクサスRC300など)
- ブローオフバルブ(FK7シビック)
- マフラー(2022年10月以降のカローラツーリングなど)
- タワーバー(現行アクアなど)
なお、借用した開発車両には開発に使用した商品を取りつけ、謝礼にするとのこと。
GANADOR
マフラーの開発車両を募集しているものの特に製品や車種の指定はなし。
要件は事故や修復歴のないノーマル無改造車でタイヤも純正サイズ(社外ホイール可)、新型車やフルモデルチェンジでの新規開発でベンチテストや新規制試験のため、約1,000km以上、それ以外でも場合によって約300km以上の走行がOKの方。
車両持ち込みについては平日の営業時間内に来れれば遠方でも問題なし、そうでない場合は、どうしても必要な車両なら陸送すら考慮し、長期で預かるためか借用中は車種こそ指定できないものの代車まで無料で用意するという、なかなか積極的な姿勢です。
もちろん開発したマフラー1台分を製品完成後に新品で進呈という特典付きですが、特別なケース(なんでしょう?)では謝礼金の進呈もありと、なかなかの好条件。
tanabe
特にパーツ指定はないものの、2024年10月発売予定とされている新型スズキ スイフトを筆頭に、まだ発売前の車種すら募集対象としており、他に新型車からデビュー後数年の車種まで多数を募集中。
募集条件としてはまず「当社滋賀工場に納車、引取りが可能な方」で、募集の型式、グレード、条件を満たし、事故や修復歴なし、指定された部分が無改造でその他も応募の際に要申告という条件で、型取りから製品化まで3回程度は借用とのこと。
代車は車種指定不可なもののメーカー指定は可能となっていますが、「手配可能」というだけで無料とまでは記載されておらず、謝礼も開発を行った製品を無料進呈とはいえ、スプリングと補強パーツ各1種類、ただし開発中止になった場合は別途ご相談…と、やや渋め?
さらにイマドキのクルマらしい注意事項として、各種の運転支援装置(自動ブレーキなど)が車高変化によりセンサー等の誤認識・誤作動の可能性はあるも、それによって発生した事故の保証は負いかねると…ユーザー側にとっては少々リスクがある内容とも言えます。
ユーザーが直接、開発車両として依頼される場合もある
今回はある程度規模が大きなパーツメーカーの事例を出しましたが、他にもさまざまなケースがあります。
特定の自動車メーカー御用達ではないものの、ある程度関係が深いと試作車を渡されて東京オートサロンに出展したカスタムカーという形で新型車をデビューさせた例もありますし、小規模ショップの場合はお客さんが乗っているからという理由で開発する場合も。
筆者も競技のドライバー現役時代、「小規模ショップの提案に乗って新しいパーツを試していて、そういや代金を払ってなかったなと思っていたら市販品として発売された」という経験や、遠くのショップから「これ試してみて」と試作品を渡された経験がありました。
それなりに大くてメジャーなパーツメーカーやショップだと、公式HPを閲覧するユーザーが多いので「開発車両募集!」と載せればある程度のアテがつくものの、ユーザーが少ない地方は小規模なショップだと、そうはいきません。
結果、「作りたい製品のある車種を入手しよう」というより、「目の前にあるツテで試せそうな車種のパーツを作ろう」という発想になり、それが結果的に大メーカーのやらないような個性的パーツの誕生…となる場合もあります。
今回紹介したパーツメーカーの「開発車両募集」に縁がなさそうなユーザーでも、近所のショップと仲良くしたり、イベントやレース、競技で活躍していれば、思わぬところでパーツ開発に縁が出るかもしれませんね。