とにかく背が高くてカクカクとしており、フロントにメッキがギラギラまぶしいばかりのフロントグリルをつけて、吊り上げたヘッドライトで威嚇するようなデザインでなくては売れない!という先入観を今の軽自動車メーカーはどこでも持っているようです。しかし、それではどこも同じ車にしか見えない!と、そんな現状に一石を投じたダイハツが送り出した、癒し系軽自動車がミラトコットです。
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ダイハツ・ミラ トコットとは
ミラ トコットの系譜を遡れば、1997年に発売されたミラ クラシックから始まります。
当時はレトロカーブームで、特に軽自動車はフロントマスクを丸目ヘッドライトにメッキグリルなど前後メッキパーツを追加しただけ、という安易なものが多かったのですが、ダイハツは1999年の後継車ミラ ジーノで、比較的本格的レトロ路線に挑みました。
ハッチバック車がゆえに、ダイハツの公式見解『1960年代の名車ダイハツ コンパーノがモチーフ』というよりは明らかにイギリスの名車BMC ミニに似ていましたが、現代に蘇った上に維持もしやすく軽自動車版のミニという扱いで人気を呼びます。
2004年の2代目ミラ ジーノを経て2009年にはクラシックというよりファンシールックのミラ ココアに発展、その後継車として2018年6月25日に発売されたのがミラ トコットです。
そしてそのデザインは、見ての通りフロントマスクにメッキパーツの1つも使われていません。
『メッキで装飾しなければ売れるわけがないだろう!』という反対を押し切ってまで、あえてこの力の抜け加減を大事にしたデザインが認められるか否か。
あるいは過去にそうした車があったように、マイナーチェンジのテコ入れでやはりメッキでコテコテの顔になってしまうのか、ミラ トコットの挑戦はまだ始まったばかりです。
ミラ トコットの特徴
メッキパーツ多用と細く吊り上がるヘッドランプの迫力あるフロントマスクで、威圧感の塊のような軽トールワゴンが販売の主力を占める中、メッキパーツを外観に一切使わずボディのプレスラインすらアッサリしており、和やかなフロントマスクを持つミラ トコット。
そのデザインは流行に対してハッキリ背を向けていましたから、当然賛否両論となりますが、実はそのデザインの源流は9年前の東京モーターショー2009にありました。
出典:https://www.daihatsu.com/
この時ダイハツブースで出展されたコンセプトカー『バスケット』(上画像)は後部ラゲッジが荷台になっているオープンピックアップで、ハイキングはもちろん農作業もオシャレなスタイルで、と提案された一風変わった車です。
市販化には至りませんでしたが、今見るとミラ トコットそっくりのフロントマスクやサイドのボディラインに、ヘッドライトに至ってはそのままで、コンセプトはともかくデザインは長年温められていたことがわかります。
このプレーンなデザインは都会の喧騒の中では目立たないかもしれませんが、さりとてどんな田舎に行っても浮いて違和感を感じることだけはありません。
もちろん安全運転支援装備『スマートアシストIII』を最廉価グレードを除き標準装備し、全車LEDヘッドランプを採用するなど最新技術も詰まってはいますが、メカニズム面より、ミラ トコットはデザインこそが最大の特徴なのです。
ベースとしている2代目ミラ イースが先代と比べて少々キツめのフロントマスクになりましたが、それと入れ替わるように癒し系フロントマスクのベーシックなエコカーを提案してくれたのがミラ トコットでした。
ミラ トコットのライバル車
一時はこの種の軽ベーシックモデルや軽トールワゴンの派生車が数多く作られましたが、最近では主力の軽スーパーハイトワゴンやそのカスタムモデルばかりで、癒し系の車が忘れ去られつつあるのが残念です。
ダイハツ・ムーヴ キャンバス
ダイハツの作ったロールーフの軽トールワゴンで珍しくも両側スライドドアを持つモデル。
ルーフが非常に長く見えることや、メッキ多様のいかついフロントグリルを持たない癒し系で、昔のマイクロバスのようにも見えて気持ちが落ち着くデザインと、実用性を両立しています。
最近の威圧的なものばかりな軽トールワゴンとは対極にある存在として、少しずつ人気は浸透中です。
スズキ・ラパン
3代前のアルトにアルトC / アルトC2というクラシックモデルを作って後、ユーザーの若返り、特に若い女性ユーザーをターゲットにしたベーシックモデルとして、モチーフとしたウサギマークが随所に散りばめられたのがラパンです。
初期には男子向けカスタムターボ車のラパンSSもありましたが、代を重ねるごとに角が丸く女性や子供のように柔らかい印象になっていき、現行の3代目ラパンはライバル同様、いかついカスタムワゴンとは一線を画す存在となっています。
ミラ トコットの新車価格
2018年7月現在、ミラ トコットの新車価格は以下のようになっています。
※全て660ccガソリン自然吸気エンジン。()内は4WD車
廉価グレードの『L』を除き、全てステレオカメラ式安全運転支援パッケージ『スマートアシストIII』装着車です。L:107万4,600円(120万4,200円)L”SAIII”:113万9,400円(126万9,000円)X”SAIII”:122万0,400円(135万0,000円)G”SAIII”:129万6,000円(142万5,600円)
それを除く各グレードの標準装備差は以下。
【エクステリア・灯火類】
デザインフィルムトップ:メーカーオプション(G”SAIII”、X”SAIII”)・無し(L”SAIII”)ドラミラー:オート格納式(G”SAIII”、X”SAIII”の2WD車)・オート格納式ヒーター付き(同4WD車)・鏡面可動および可倒式のみ(L”SAIII”)フロントドアガラス:スーパーUV&IRカット(G”SAIII”、X”SAIII”)・UVカット(L”SAIII”)リアドア / バックドアガラス:スモークドガラス(G”SAIII”、X”SAIII”)・無し(L”SAIII”)
【インテリア】
シートヒーター:運転席/助手席(G”SAIII”)・無し(X”SAIII”、L”SAIII”)運転席シートリフター:あり(G”SAIII”、X”SAIII”)・無し(L”SAIII”)インテリア各部メッキ:G”SAIII”のみありUSB電源ソケット:あり(G”SAIII”、X”SAIII”)・無し(L”SAIII”)
【快適装備】
オートライト:G”SAIII”のみありエアコン:オート(G”SAIII”)・マニュアル(X”SAIII”、L”SAIII”)
ミラ トコット 主なグレードのスペック
ダイハツ LA550S ミラ トコット G"SAIII" 2018年式全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,530ホイールベース(mm):2,455車両重量(kg):720エンジン仕様・型式:KF 水冷直列3気筒DOHC12バルブ総排気量(cc):658最高出力:38kw(52ps)/6,800rpm最大トルク:60N・m(6.1kgm)/5,200pmトランスミッション:CVT駆動方式:FF
まとめ
ミラ トコットの姿を見る人には、それを『簡素』と捉えてターボエンジンやマニュアルミッションを備え、『羊の皮を被った狼』的なモデルを望む人も、案外少なくありません。
実際そうしたモデルがあっても面白いかなと思うこともあり、それだけまとまりのあるデザインとして広いユーザー層に受け入れられいます。
それどころか、メッキパーツのアグレッシブマスク至上主義という自動車メーカーに猛省を促すキッカケとなる可能性すらあります。
ただ、ミラ トコットというクルマに求められているのは、羊の皮を被った狼よりも、『羊のように肩肘張らずにのんびり出来るクルマ』である事なのではないでしょうか?
気が付けば車も人も肩を怒らせ自己主張していないと生きにくい世の中で、肩の力を抜くことの大事さを教えてくれる車、それがミラ トコットなのかもしれません。