皆さんお気づきでしょうか?近年の新型車は昔のようにワイヤーでアクセルペダルと繋がった機械式のスロットルではなく、アクセルペダル操作に応じたスロットル開度をコンピューターが判断して実行する「電子制御スロットル」となっていることを。
つまりスロットルを実際に動かすのはあくまでコンピューター…というわけで、スロットル操作へ介入し、燃費やレスポンスを改変するスロットルコントローラー、略して「スロコン」という製品が、多数販売されています。
ECUの書き換えやサブコンによる補正とどう違うのか、スロコンのメリット・デメリットと併せて紹介しましょう。
まずは基本から!電子制御スロットルとは何か?!
筆者は1990年代末、某社の新型車をドライブする機会があり、当時採用が始まったばかりの「電子制御スロットル」を試したことがあります。
従来のスロットル制御とはアクセルペダルからつながったワイヤーで、エンジンに取り付けられたスロットルを機械的に動かす仕組み。
しかし電子制御スロットルはアクセルペダルの操作量に応じた信号をコンピューターへ送り、ドライバーの意思を実現するのに「コンピューターが最適と考えた操作」を考え、モーターなどでスロットルを動かすものです。
その新型車はアクセルを「踏んだ」というより「踏もうと思った」次の瞬間にはスロットル操作が立ち上がるという凄まじいレスポンスの速さで、ペダル操作に対して敏感すぎる面はあったものの、スポーツ走行で自在なコントロールをするには最高でした。
この制御を燃費向上に活かせば、ドライバーがアクセルを踏んでもスロットルはゆっくり開いたり、逆に閉じていったりという効率的な制御も可能で、CVTや多段ATとの協調制御も加えれば効率はさらに上がり、現在のように燃費のいいクルマにはもう欠かせません。
一方で、「アクセルを踏んでるのに、思ったように加速しないな?」という違和感を感じるドライバーもいて、スロットル操作に限定して電子制御へ介入する「スロットルコントローラー」、略して「スロコン」が生まれました。
大きく分けて2つの方式がある、スロコン
ECU(コンピューター)によるスロットル制御への介入方法は大きく分けて2つ、「アクセルペダルの踏み込みに応じて、ECUへ送信される信号に介入する」か、「ECUからスロットルへ送られる信号に介入するか」です。
両者の代表的な例と併せ、紹介しましょう。
1.アクセルペダル→ECU間の信号へ介入(BLITZ 「スロコン」シリーズ)
BLITZの「スロコン」シリーズが採用している方式で、燃費重視の「エコモード」、レスポンス重視の「スポーツモード」、アクセルの操作状況に応じて自動でモード変換を行う「オートモード」などを設定可能。
オートモードの例でわかるように、アクセルペダルの操作状況に応じてECUへ送られる信号を補正するもので、スポーツ走行時にレスポンスを引き上げたり、エコドライブのため逆にレスポンスを控えめにと、ドライバーの意図に応じECUへ「翻訳」するわけです。
ベーシック製品の「Thro Con(スロコン)」のほか、パワーアップも図る「Power Thro(パワスロ)」、「Power Thro NA(パワスロNA)」、車内コントロールユニットはないものの、純正スイッチ風に取り付けできる「Sma Thro(スマスロ)」をラインナップ。
ECUへの信号に介入するため、アイドリングストップ解除など単純なスロットルコントロール以外への介入も可能で、簡易的なサブコンとも言える拡張性の高さが魅力です。
2.ECU→スロットル間の信号へ介入(MAX ORIDO「感度MAX」)
「MAX ORIDO」ブランドを展開しているスロコン「感度MAX」が代表的で、気持ちよい自然な加速感を売りにしています。
アクセルペダルからの信号に介入するのではなく、ECUからスロットルへの信号に介入…というより、スロットル操作の信号が入るとスロットルモーターの電圧を変動させて、直接モーターのトルクをコントロールする、文字通りの「スロットルコントローラー」です。
仕組みとしては単純ですが、それだけに対応車種ごとに綿密なセッティングがなされており、スロットルモーターの制御に特化しているため拡張性はないようですが、逆に社外ECUを使用しても干渉する心配はないといったメリットも強調されています。
エコモードも使って燃費重視もしたい…というより、単純に気持ちよくドライブしたい!というユーザー向けの製品と言えるでしょう。
スロコンのメリットとデメリット
手軽なチューニングパーツとして認知度が高まるスロコンですが、メリットやデメリットにはどんなものがあるでしょうか?
メーカーでマッチングできていない車種へ無理やり使うと危険なケースもあり、良いこと(メリット)だけではなく、リスク(デメリット)もしっかり把握したうえで使用しましょう。
メリット
- 安価で、手軽に効果を体感しやすく、チューニング初心者向き。
- 電子制御スロットルにありがちな、「アクセルペダルを踏んでから、コンピューターが実際にスロットルモーターを操作するまで考える時間」による違和感、ストレスを減らせる。
- 出力向上など基本的なスペックに影響を及ぼさないものなら、ECU書き換えが認められないレースや競技でも使用できる場合がある。
- レスポンス向上目的で使用した場合、可能な限り早くアクセルを踏む(スロットルを開く)のと同じ効果が期待できて、立ち上がり加速の速さや加速する距離を長く取れる。
- 同じく、アクセルワークで車両の姿勢をコントロールしたい場合、ドライバーのスキルが高いほど意図した姿勢に持ち込みやすい。
- 燃費向上目的で使用する場合、エコモードがあればレスポンスを穏やかにして、燃費悪化要因となる無駄な加速を減らせるほか、スロットルモーターの直接制御方式でも、無駄なアクセル操作を減らして効率的なドライブにつなげられる。
- オートモードがある場合、アクセルペダルの踏み込み量に応じてレスポンス重視でも燃費重視でも、状況に応じて効率的な走行が可能となる。
デメリット
- ブースト圧制御などオマケ機能があるもの以外、最高出力や最大トルクが上がるわけではない。
- レスポンス重視型のセッティングではアクセルワークへ敏感な分、ドライバーのスキルが伴わないと実際の速さにまでは結びつかず、実戦では操作感の悪化やタイムの伸び悩みなどへつながる場合もありえる。
- 別メーカーのスロコンを両方装着して同時使用は原則的にできない。
- 同じく、原則として純正ECU対応品のため、他社製ECU、ECU書き換えとはマッチングされた対応品でもない限り同時使用できない。
- 車種別に厳密なマッチングをしていない製品、またマッチング外の車種に使用した場合など、レスポンスの変化がECUに「異常」と認識され、エンジンチェックランプ点灯&セーフティモードによりマトモに走れなくなり、危険なケースもある。
- オートクルーズや誤発進抑制機能、衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)といった、電子制御スロットルを利用している純正機能に対応した製品と、そうでないものがある点に注意。
スロコンってECU書き換えとはどう違うの?
スロットル制御そのものは本来ECUで行っているものですから、「ECU書き換えでも同じことはできるよね?」と思いがちですが、製品によって方式は異なるものの、「スロットル制御に特化した簡易的な製品」だと思えばよいでしょう。
BLITZの「Power Thro」「Power Thro NA」のように限定的ながらもパワーアップを実現したり、アイドリングストップ性能のキャンセル、スバルのSI-DRIVEのようにエンジン制御モードの設定(初期モードの変更)に介入できる場合もあります。
しかしECU書き換えのようにスピードリミッター解除、燃焼制御やバルブタイミング、ATとの協調制御といった広範な介入によるエンジン出力アップやフィーリング変更など、ECUの根幹に関わる制御にまで介入するものではありません。
またスロットルモーターの電圧制御へ直接介入する場合、ECUとの関連性はより薄いものとなります。
あくまで電子制御スロットルのレスポンス変更に特化し、フィーリング変更だけではなく加速の立ち上がり改善、アクセル操作による車両コントロール性の改善、逆に通常走行時の燃費改善などを、簡易で安価に実現するパーツがスロコン。
ECU書き換えが規則で認められていないレースや競技でも、スロコンであればOKというケースもあり、たとえ最高出力や最大トルクといったスペックが変わらなくとも、レスポンスアップによって実戦向きのパーツと考えているユーザーも、少なくないのです。
それなりの予算をかけ、ハード面での徹底的なチューンに合わせてECUを書き換えればものすごいマシンになりますが、ほぼノーマルに近いマシンで、体感面でのフィーリングアップやレスポンスアップによる恩恵を得たいユーザーには、スロコンが最適でしょう。